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第111話

綾人は小学生の頃、両親を亡くしている。 一人っ子だった母方には親戚がいなくて、父のみ肉親は弟がいた。 叔父の名前は三上 宏(みかみ ひろし)。妻と息子が一人いて、何処にでもいる平凡な家庭だが、綾人にはこの家は地獄の巣窟だった。 父と母が生きている時から何かと嫌がらせを受けた。 叔父は父を妬み、叔母は自分の息子である宏樹を溺愛していた。 その宏樹といえば、とても乱暴者でよく殴られては泣かされていた記憶しかない。 両親が亡くなって、いくあての無い自分を引き取ってくれたのだが、そのことは綾人の心に大きな幾つもの傷を作った。 一つは従兄弟の宏樹との圧倒的な差別 そして、もう一つは・・・ 中学に上がると同時に叔母が家にいなくなると叔父はやたらと綾人の体を触るようになってきた。 それに耐えれば、その日は従兄弟の宏樹と同じ待遇をしてくれることに純粋に嬉しくて綾人は耐えていた。 日が経つに連れ、体を触る行為は服を脱がす行為へと変わっていった。 自分を見る目が徐々に常軌を逸する叔父が怖くて、綾人は疎まれても叔母と行動を共にするようにした。 叔母の手伝いを一生懸命すればするほど叔母は綾人を使った。 雑用は疲れることも多々あったが、気持ち悪いことをされるよりも心は楽で綾人自身、勤しんで取り組んだ。 中学二年の夏。 三上家で大事件が起きた。 家から百万円という大金が無くなったのだ。 勿論、真っ先に疑われたのは綾人だ。 疑う一家に違うと声を出して抗議したが、信じてもらえるわけもなく三日間、真夏の灼熱の炎天下のベランダに放り出された。 一日にコップ一杯の水だけを差し出されるだけでその他は飲まず食わずして放置されるという拷問を与えられた。 衰弱してこのまま死ぬのかと思ったとき、カラカラとベランダの窓が開いて従兄弟の宏樹が助けてくれた。 叔父と叔母は外出していたらしく、水と食べ物を自分の目の前へぶら下げて宏樹は笑って服を脱げと命令してきた。 食べ物欲しさに衣服を脱ぐと叔父と同じようにあちこち体を触られた。 気持ち悪いと逃げたら、殴られた。 「足を開いてこっち向け」 卑猥な恰好を要求してくる従兄弟を拒んだ。 だが、拒めば拒むほど暴力が積み重なり、綾人は屈服して、泣きながら足を開いた。 カメラを構えた従兄弟はそんな綾人の写真を何枚も撮り続けた。 更には・・・ 「あの百万円。俺が盗んだんだ」 と、信じられない言葉を吐き捨てた。 目の前が真っ暗になって悔しさに拳を握り締めたとき、百万円を目の前に投げられ耳を疑う命令をされた。 「この金、僕が盗みましたって父さんと母さんに返しといて」 とんだ濡れ衣を被せてこようとする従兄弟に綾人は我慢ができないと、掴みかかって喧嘩になったとき、叔父達が帰ってきて取り押さえられる。 もちろん、最終結果は宏樹のシナリオで幕を閉じた。 綾人が百万円を盗んでいて、両親には黙っていて欲しいと裸になって誘惑してきたと力説された。 とんだ嘘を並べられ、綾人はどれほど違うと泣き叫んでも聞き入れてもらえず、泥棒と淫乱のレッテルをはられた。 中二の夏、それが原因で高校の進路は家を出て行けと寮がある学校を勧められた。 自分としても嬉しい出来事でもあった。 この家族から逃げ出したかったのだ。 同じ場所にいるだけで息苦しい。 こうして、綾人は立春高校を選んだ。

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