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第116話

「綾人君!綾人君!!」 目を覚ましたとき、そこは病院のベッドの上で綾人は飛び起きた。 怖い夢を見ていたからか、汗をびっしょりかいている自分に驚く。 真っ白い部屋で真っ白のベッド。 この部屋には何もない。 ただ、自分が横たわるためのベッドと自分と対峙する先生が座るパイプ椅子だけ。 「・・・先生?」 黒い髪の端正な顔立ちをした優しく落ち着いた雰囲気を持つ男を綾人は安堵の声で「先生」と呼んだ。 はやみ心療内科の院長、速水 正嗣(はやみ まさつぐ)。 この男だけが綾人の過去も秘密も何もかもを知っている唯一の男。 「先生、僕どうしてここにいるの?」 「覚えてないかい?」 布団を握り締めて聞くと、優しい声で聞き返されて綾人は考えた。 夕御飯を食べて同級生に追いかけ回され、いつものように門倉に助けられた。 儀式のような行いがまた始まると憂鬱だったとき、茶封筒を手渡されて自分の容態が激変したのを思い出す。 そのことを告げると速水は優しい笑顔のまま真相を濁すようにを話した。 「ちょっと門倉君と喧嘩しちゃったみたいだね。綾人君の様子がおかしかったから僕に電話をくれたんだよ。救急車を呼んで直ぐにここへ運んで来てもらったんだ」 ・・・・・救急車を? 「・・・・・僕、何かしたの?」 門倉と言い合いになってからの記憶がなくて綾人は不安げ眉を垂らして速水を見た。 「大したことじゃないよ。気にしなくていい。そんなことより・・・」 笑っていた顔を真剣にして、速水は綾人と目線を合わせて聞いた。 「そんなになるまで、何があったの?」 その一言に綾人は頭の中を真っ白にした。 そして、次に門倉のことが頭の中を駆け巡った。 「・・・・・・僕、変ですか?」 「うん」 「どこが?」 無理にでも笑顔を作って聞いてくる綾人に速水が抱き締めて囁いた。 「僕の前では小学生でいいんだよ」

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