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第117話

「先生!僕ね、イチゴが食べたい」 気持ちが段々と落ち着いてきたのか、ベッドの上でぶんぶん手を振ってはいちご、いちごと強請る綾人に速水は笑って部屋を出ていった。 数分後、手には大粒のいちごが沢山盛られた皿を片手に帰ってくる。 「はい。どーぞ」 目の前に差し出すと綾人は嬉しいと笑っていちごを頬張った。 美味しいと、歌を歌って足をパタパタさせては無邪気に喜ぶその姿は本来、自分が知る、素の小学5年生の綾人だと速水は安堵の息を吐いた。 親もいなければ、親しい友人もいない。 頼れる肉親もいない綾人はいつも孤独だった。 大人でもそのような寂しい環境はとてつもない心の闇を生む。 精神的にも肉体的にも幼い綾人が何も感じないはずはなくて、速水はいつも保護者の役割を買って出ていた。 綾人としては素直に受理することもあれば、遠慮が先立つ事柄もあるらしく、心は許されていても気は許されてないことを悲しく思うことが多々あった。 軽快にまぐまぐといちごを食べ進めていた綾人の手がピタリと止まって、表情に暗い影を落ちる。速水は気になって声を掛けてみた。 「・・・・どうかした?」 寄り添うように優しく声を掛けてやると綾人は小さな声でボソボソと答えた。 「・・・先生。門倉先輩いるでしょ?」 「え?あぁ・・・。うん」 「僕のことね・・・。調べたんだって」 気を落とすように話す綾人に速水は息を呑んだ。 良い過去を持たない綾人は自分の事を知られるのを極端に嫌がる傾向がある。 話をする時も自分の話題は決して出さない。 かと言って、人の詮索をしたり噂話をしたりするわけでもなく、興味のあるものやテレビの話など当たり障りのない物事をよく話していた。 「どうしよう・・・。僕が悪い子なの学校中に言い回る気かな・・・・」 泣き出しそうに顔をくしゃりと歪めては不安そうな綾人に速水は茶色の封筒を取り出した。 「・・・・それ」 「うん。門倉君に渡された」 ここへ運び込まれるとき、大体の話の流れは門倉から聞いていた。 この茶封筒の中身の内容も速水は目を通していた。 中身は綾人の出生のこと。親戚がロクでもないこと。両親が他殺による事件で亡くしていることが書かれていた。しかし、その内容は隠されていて門倉は知らない。 以前、ここへ門倉が来たときから二人の関係が気になっていたこともあり、速水がそのことを聞くと、門倉の口から「恋人同士」だと聞かされた。 半ば、信憑性はなかったが門倉の必死さが目立った為に速水は勝負に出て、こちらのカードを一枚切った。 それは・・・ 「あのね、綾人君。門倉君は何も知らないよ。ただ、君と恋人同士だと聞いた。だから、君の精神的な話だけを僕の口からさせては貰った・・・」 「それって・・・」 「うん。君の心が小学5年生の10歳で止まってるってこと・・・」 自分の秘密の一つを本格的に門倉へ明かされたことに綾人は呼吸を止めて、目の前を一瞬、真っ暗にした。

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