119 / 309

第119話

「綾!」 寮のエントランスへ戻るなり門倉は綾人へ駆け寄ってきた。 ずっと帰ってくるのを待っていたようで、心配してくれていたのをその顔から見て取れる。 「・・・パニック起こしてごめんなさい。あと、部屋汚したよね。僕、掃除します」 頭を下げて何もなかったかのように、ニッコリ微笑む綾人の手を門倉は握り締めた。 「掃除とかそんなことは気にしなくていい。それより、話をしよう?部屋へ来て」 いつも自信満々な紅茶色の瞳が不安気に揺れていて綾人は笑ってしまった。 「イヤだな。先輩!僕達、2年間の付き合いでしょ?そんな気を負わないで下さい!恋人っていっても恋人ごっこ・・・。契約なんですから」 変な厄介ごとはお互い持ち込むのは止めようと微笑む綾人からハッキリとした拒絶の壁を門倉は感じ取った。 それが物凄く悲しくて胸を締めつけた 「好きだって言っただろ?」 自分の気持ちを受け止めて欲しい 「守るって約束したよね?」 必ず結果を出すから信じてくれ 「俺は約束は・・・」 「先輩!・・・僕に一体、何の夢見てるんです?何を求めてるんです?僕は貴方のこと、好きになんてなりませんよ。ギブアンドテイク・・・、2年間の契約でしょ?」 門倉の言葉を遮り、余計な概念は不必要だと綾人は淡く微笑みながら言った。 言葉を失い、自分を見つめてくる門倉に綾人は今までに見せたことのない暗い瞳を向けて吐き捨てる。 「今後、余計な詮索は一切しないで。次はその時点で別れます・・・」 一言、そう言い残すと綾人は門倉の手を振り払って横を通り過ぎた。 腕を掴んで引き止めたい想いに駆られる一方、門倉は綾人が口にした「2年間の契約」という言葉に躊躇い、何も出来ずに小さく去っていく背中をただ見つめていることしかできなかった。

ともだちにシェアしよう!