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第120話
盆休み。寮はかつてない静けさに包まれていた。
この学園の数少ない帰省シーズンの為、生徒達は全員嬉しそうに寮を出て行った。
長い夏休みのなか、たった1週間だけの帰宅に周りは不平不満を口にしていたが、綾人にとっはとてつもなく長い一週間に思える。
ボストンバッグの中へ必要最低限のものを詰め込んでいく。それでも、鞄の中は大荷物でパンパンに膨れ上がった。
その訳は、一週間分の着替えがそうさせたのだ。
洗濯機など使わせてもらうつもりのない綾人は着替えを中心に鞄へと荷物を詰めた。
あとは歯ブラシや携帯電話の充電器ぐらいだ。
財布と携帯電話、そして、薬は肌身離さず持ち歩く。
帰り支度を終わらせると綾人は重い溜息を吐いた。
旅行へ行くと不在にも関わらず、あの家へ帰るのが億劫で仕方がない。
かといって、行く当てもない為に向かわねばならぬのだが、気持ちは前を向こうとしなかった。
今、現在この寮に残っているのは恐らく自分だけであろう。
退寮を渋り続けていたとき、部屋の扉がノックされた。
「え⁉︎・・・は、はい‼︎」
誰もいないはずだと思っていたのに扉が叩かれて驚きに体が跳ねた。
返事を返すと扉がそっと開く。顔を出したのは門倉だった。
「綾・・・」
「門倉先輩・・・・」
門倉とはあの一件以来、綾人は顔を合わせていなかった。
特別、呼び出されることもなかったことから自分からも近付かずにいたのだ。
気まずい空気が流れ、言葉に詰まっていたらそれを打破するような門倉が口を開いた。
「綾、親戚の家が嫌なら・・・」
「僕、もうそろそろ帰りますね!門倉先輩がまだいたなんて知らなかったなぁ!!また2学期から宜しくお願いします!あ!次は夕涼み会かな?先輩、生徒会業務頑張ってるし、どんな催し物になるのか楽しみにしてますね」
門倉の声を遮るように少し大きめの声で綾人は明るく言った。
そのまま荷物を持って門倉と部屋を出るようにして鍵を閉めると、ニコリと微笑んだ。
「じゃあ、また!」
右手をパーにしてヒラヒラ手を振ると、綾人は門倉から逃げるように早足で去っていった。
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