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第122話
「猛はさ〜・・・」
「何?」
「西條と上手くいってんの?」
生徒会業務を終え、帰り支度をする幼馴染みに門倉が机で頬杖を付いて物思いにふと聞くと、九流はふふんっと口元を笑みにして誇らしげに言った。
「上手くもなにも、今からざくろの手料理食いにいくから」
浮き足立ってはニヤニヤする親友が羨ましい反面、無性に腹が立った。
「・・・・・へぇ。マズそう」
意地悪な言葉を吐くものの九流は怒ることも機嫌を損ねることもなく笑う。
「不味かろうが美味かろうがどっちでもいいんだよ!要は、会えるだけでいいんだ!」
「・・・・」
言いたいことが痛いほど分かる門倉はグッと奥歯を噛み締めた。
「ざくろの妹にも会わせてもらえるし、もう俺に心を許してきたも同然だと思わねーか?俺の人生の幸せの波が確実にビッグウェーブに掛かろうとしてるんだよな」
いつもクールな男が柄にもなく、浮き足立っては幸せに浸る姿をいつもの自分なら応援したであろう。
だが、己の恋路が全く前進どころか後退している今、この男のノロケが許せない。
「そんな幸せな猛君には〜・・・。はい!このお仕事をプレゼント!」
どーぞ!と、満面の笑顔で黒の分厚いファイルをドカッと九流のデスクへ置いた。
「・・・てめぇ、なんの嫌がらせだ?コラッ!」
流石に不機嫌になる九流に門倉はしめしめとほくそ笑む。
「嫌がらせだなんて言いがかりだよ!仕事は仕事!」
にっこりと微笑む王子の笑顔に九流は苦虫を潰したかのような顔をした。
「なんだぁ?白木と上手くいってねーの?」
腕を組んで踏ん反り返り、見下すような笑みを浮かべて言ってくる九流に門倉がゔっと、言葉に詰まった。
その姿を見て、九流は盛大な溜息を吐く。
「八当たりすんなよな。つーか、白木に電話掛けろよ。会いたいって言えばいいだろ?」
「・・・・」
「恋人なんだろ?」
「・・・・」
門倉の押し黙るその姿に九流は根気強く、親友の返答を待つ。すると、詰めていた息を吐くように門倉が告げた。
「・・・恋人なんかじゃない。ただの二年間の契約だ」
「契約?どんな?」
「俺が綾を高校三年間守ること。その代わり、綾は俺が卒業するまでの二年間、体を差し出すこと」
どこかで聞いたような契約内容に九流はバツが悪そうに瞳を反らせた。
「・・・で?別にお前と白木が納得してるなら良くないか?」
「・・・・うん」
明らかに納得してない様子の門倉に九流が苦笑する。
「二年じゃ足らなくなった?」
その言葉に紅茶色の瞳が揺れた。
二年じゃ足らない・・・、かもしれない。
それはまだ分からない
分からないけれど・・・・
「綾の特別になりたい・・・・」
ぐっと拳を握り締め、心の中の声を呟く。
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