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第123話

「んじゃ、俺を特別にして下さいって頼んでみれば良くないか?」 あっけらかんと言ってくる九流に門倉はムッとしながら親友を睨みつけた。 そんなこと、恥ずかしくて出来るわけがない みっともないにも程がある。 それに、きっと・・・綾が許さない 視線を落として、口を結ぶ門倉に九流が呆れたと息を吐いた。 「出たよ!エベレスト並みのプライドの高さが!」 はんっと、鼻で笑って背中を勢いよく椅子の背もたれに預ける九流は門倉を見据えた。 「俺、言ったよな?本気なら好きだって縋って泣き喚けって。今がその時なんじゃねーの?そのプライド、下げてまでの本気の恋じゃねーのかよ?」 「・・・・俺だって相当プライド下げてるさ」 「下げてねーだろ。自分のギリギリのラインを見極めて下げてる気になってるだけだろ?もっと自分を晒け出して崩したらどうだ?後先考えずに気持ちぶつけろよ」 他人事のように好き勝手言う九流に門倉は紅茶色の瞳を憎らしげに細めて机を拳で思い切り殴りつけた。 「そんな自分勝手なこと出来るわけないだろ!?俺は門倉家の跡取りだぞ!!」 淡々と告げる自分とは真逆に段々と声を荒げては最後は怒号を放つ門倉に九流はニヤニヤ笑った。 「おーおー!熱くなってんじゃん。あのお前が!やっぱり、ホンモノなんじゃねーの?そろそろ、素直になれよ」 親友の滅多と見せない姿に九流は嬉しいのか、顔を緩ませた。 「門倉家のデカさは俺も知ってるよ。でも、二年間自由なら自分ぶっ壊して本気で楽しんでみれば?」 それだけ言うと、九流は門倉が嫌がらせで出してきた黒いファイルを鞄に詰め込むと椅子から立ち上がった。 「気持ちが定まらねーなら、ラブレターでも書けよ。今まで掃いて捨てるほど貰ってたんだから、何かと書き方ぐらいは知ってんだろ?」 どこまで本気でどこまで冗談なのか分からない捨て台詞を残し、右手をヒラヒラ振りながら九流は生徒会室を後にした。 部屋に一人残された門倉は帰ることはせず、万年筆片手に便箋と睨み合いっこをしていた。 ラブレター 貰った経験は星の数ほどある。 書いた経験は一度もない。 あまり、中身を読んだこともなかったが気紛れで手紙を開いては鼻で笑ってすぐ、ゴミ箱へと捨てていたことを思い出す。 または、親友の九流と笑ってネタにしていたこともあったなとぼんやり昔のことを頭の中へ過ぎらせた。 九流の当てつけがましい思い付きにすら、必死にしがみつこうとして、万年筆と便箋を取り出している自分に笑えた。 「やっぱ、やめた!」 らしくないと、真っ白な便箋をグシャリと握り潰してゴミ箱へ捨てる。 万年筆も机に置こうとしたのだが、逸る想いが勢いついてしまったのかなかなか置けずにいた。 ・・・・少しだけ 気持ちを書くだけだ 書いたら捨てる それなら・・・・ 自分に盛大に言い訳と去勢を張り、門倉は机の引き出しからまた一枚便箋を取り出した。 そして、ドキドキと鳴り続ける心臓に見合う言葉を紙の上へと文字を走らせた。

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