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第124話

「綾人、遅い!」 ソファへ腰掛ける宏樹はお茶を淹れろと命令を下したのだが、不慣れなキッチンで何がどこにあるのか分からない綾人がもたついていたら、ドカッとテーブルを蹴り上げて怒鳴り声を放った。 「ご、ごめんっ!!」 冷房がガンガンに効いている部屋だからか、冷たいお茶ではなく、温かいお茶をご所望の従兄弟に綾人はやっと見つけた急須でお茶を湯飲みに注ぐ。 「和菓子食いてぇ。何か買ってこい!」 そっと、目の前にお茶を置くと乱暴に次の命令を下され、綾人は小さく頷くと部屋を出た。 宏樹から解放されると心に安堵の色が浮かんだ時、玄関を飛び出そうとしたら大きな声で釘を刺された。 「30分以内に帰って来なかったら、あの写真バラまくからな!」 その言葉に綾人は顔を強張らせると、腕時計に目を走らせ、急ぐように家をあとにした。 「ど、どうしよう!あと5分!!急がなきゃ!!!」 宏樹が好物の豆大福を購入して綾人は急いで三上家へと走っていた。 なのも、家を出て少しした所で何度かナンパに遭ったのだ。 急いでいると振り切るものの、また数メートル先では別の男に声を掛けられての繰り返しで要らぬ時間を食ってしまった。 遅刻でもしたらあの痴態を晒した自分の写真が公の場に公開されると思うと涙が浮かぶ。 汗を流し、息を切らせて綾人は全速力で宏樹の元へと走っていった。 「お、お待たせっ!!」 ゼイゼイ息を切らせて何とか1分前に従兄弟の目の前へ豆大福を差し出した。 「遅いっ!!!」 怒声と共にパンっと、頬を平手打ちされて綾人は肩を竦めて硬直する。 ジンジンと痛む左頬を押さえて、呼吸を整えながらこれ以上、宏樹が怒らないようにと視線を伏せて謝った。 「・・・ご、めん・・なさい・・・・」 怯えるものの素直な態度に従兄弟はフンッと鼻を鳴らすと、座れとだけ命じて綾人の買ってきた豆大福を頬張った。 その姿を見て、綾人は小さく息を吐き部屋の隅っこに正座して座った。 それが、この家での綾人の場所であり、ルールだから。

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