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第131話
「綾、泣き止んで。目が腫れるよ?」
泣きじゃくっては自分へ縋るように抱き付いてきた綾人を門倉は宥めながら服を着させて抱きかかえると、待たせていたタクシーで寮へと戻った。
門倉の部屋のベッドへ綾人を横たえ、上から覆い被さるようにしてまだパニックに陥り、震えながら泣く綾人の髪を撫でては抱きしめてやる。
「綾・・・、大丈夫だから、ちゃんと息吸って」
過呼吸気味になっている綾人に言い聞かせるように言うと、綾人は苦しそうに涙を流しながら懇願した。
「せんせ・・・、はやみ先生呼んで・・」
「それは駄目」
縋る思いで頼んだ言葉は瞬時に否され、綾人は新たな涙を流した。
「・・・どうして?お願いっ・・・、せんせぇと話したい・・」
頭の中が混乱して、心が落ち着かないと視点をブレさせる綾人の様子は明らかにおかしい。
「先生と何話すの?俺に話してごらん?気持ちの整理をしたいんでしょ?」
頬を優しく撫でながら、頼るなら自分を頼れと門倉が瞳を向ける。
精神が不安定な綾人は頭を抱えて、身を捩ると今度は何かを探し始めた。
「なに?どうしたの?」
「薬・・・、飲みたいっ・・頭が痛いの・・・・」
自分を守る術を何とか探しだそうと必死な姿の綾人を門倉はキツく抱きしめた。
「綾・・・、薬も駄目。俺がいるだろ?俺に頼れ!」
「いやっ!薬だけお願い!!気が狂いそうっ・・オエッ・・・ッ・・」
門倉の腕の中でもがく途中、綾人は極度のストレスから胃の中のものを吐き出した。
ゲホゲホと苦しそうに噎せ返るその姿に門倉は背中をさすって冷や汗を流す綾人の額へキスを落とす。
「綾ちゃん・・・。ちょっと頑張ろうか」
怯え、混乱しては恐怖とストレス。そして、トラウマに支配された綾人を前に門倉の瞳が鈍く光った。
その光に不安を感じた綾人は何をする気なのかと苦しげに呼吸を繰り返し、門倉を見つめた。
「・・・あいつらに何された?」
紅茶色の瞳がスッと細められ、抑揚のない声が綾人へ質問を重ねていった。
「従兄弟達に何をされた?今まで何をされてきた?叔父や叔母には?綾が隠したがっていること、全部話して」
命令とも取れる口調は綾人を追い詰めていく。
首を横へ振って嫌だと意思表示する綾人に門倉は冷たい声で畳み掛けるように綾人の核心へ迫った。
「じゃあ、質問変えるよ。・・・綾って今、本当は何歳なの?」
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