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第132話

門倉の質問に綾人から表情が消え去った。 それを見た門倉は速水のことを思い出す。 綾人が倒れたあの日、速水から聞かされた。 綾人の精神年齢はある一定からここ何年も成長していないと・・・ それは複雑な環境下のもと仕方がないことだと聞かされた。 全てを隠し、ただそれだけを伝えられたがその一つがこの親戚関連なのだろうと門倉は悟る。 真実、綾人が今までどんな生活を強いられてきたのかは教えられてはいない。 また、精神年齢が低いとは聞かされたが何歳で止まっているのかも聞かされてはいなかった。 通常であれば、高校一年生の綾人は15歳。今年の夏が来て誕生日を迎えると16歳になる。 「・・・・・今年、16歳ですけど・・」 視線を外して小さな声で正当な返答を言う綾人に厳しい声を返した。 「精神年齢のこと話てるんだけど。一体幾つなの?」 真っ向から聞く門倉に綾人は嫌そうに顔を歪めて身を捩った。 「・・・なんの話?意味分かんない。15歳だもん」 震える声が部屋に響く。 逃げを打つ綾人を門倉は許さないと、華奢な手を握り締め、真摯な瞳を向けた。 耳の奥がドクドクなる これは自分の心臓の音なのかと思うと怖かった 門倉の瞳が 声が 言葉が 自分の完全なる領域を超えてきて目の前が真っ暗になった 何処まで知ってるの? 何て答えたら満足する? 僕は高校一年生で、先輩は高校二年生 僕は15歳で夏が来たら16歳になる それじゃダメなの? 冷や汗が背中を伝ってドクドク耳鳴りの如く何かが鳴り響き、自分の鼓膜に鬱陶しさを感じた。 それを隠すように引き攣る顔の筋肉を動かして、綾人は懸命に笑顔を作った。 「やだな・・・。僕のこと子供扱いしないで。先生から何聞いたか知らないけど、僕と先輩は一個しか違わないですよ・・・」 揺れる瞳でこれ以上、踏み込んでこないでと懇願すると門倉は目を細め、口を開いた。 「綾から話せないなら俺が話そうか?」 門倉は全てを知っているとでも言うような口調で何も知らないくせにハッタリをかます。 冷ややかな瞳を向けて、自分から話せば優しくしてやると甘い言葉でそそのかし、綾人の震える唇へ門倉は嘘を並べ立てる己の唇を重ねた。 そんな綾人は門倉の口車に乗せられ、サッと血の気が引くのを感じた。 それと同時に吐き気を催して、気がつけば胃の中のものを再び吐き出す。 「ゔぅ・・・おぇ・・っ・・・・」 極度のストレス状態なのか、続けざま二度も戻しては軽い過呼吸まで引き起こし、苦しそうな綾人の背中をさすって抱きしめてやった。 カタカタ震える体を安心させるように頭や額へ口付けていくと、身を小さくする綾人が小声で訴えた。 「吐いたから無理。・・・話せない。先生に吐いたら無理しちゃ駄目って言われてるから」 言い訳を口にする綾人に門倉がその上をいく言葉で否した。 「三回吐いたら・・・だろ?それまでは大丈夫。気にせず話して」 これは、自分が綾人との付き合いをする中での危険信号だと教えられたこと。 綾人の容態についてはここまでしか知らない門倉だったが、追い詰められてパニックに陥っている綾人にとってはそこまで知ってるのかと涙を溢れさせた。

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