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第133話

「・・・やだ。話したくない・・・・・」 震える声で首を横へ振り、拒否する綾人に門倉の視線は更に厳しさを増した。 「こ、怖い・・・、どうして怒ってるの?僕が何したの?我儘言ったから?先輩を呼んだから・・・?」 門倉の胸元の服を握り締め、綾人は必死に謝罪した。 「・・ごめんなさ・・・っ、もう迷惑・・かけないから・・・・。先輩に関わらないから・・・・許して、ください・・・」 目をキツく閉じて子供のように泣きながら訴えてくる綾人に門倉は優しくキスを繰り返した。 ひっくひっくと、しゃくり上げる綾人の髪を撫でて、両手で顔を挟んで逃げられないように固定すると、薄っすら開いた蜂蜜色の瞳に紅茶色の瞳を真っ直ぐ見据えた。 「話すまで絶対、許さない・・・」 ビリリっと震撼する空気に綾人の体が恐怖で震えた。 頬を挟む門倉の手が優しい指先で唇を撫でてきて擽ったい。 反射的に閉じた瞳を再び薄っすらと開くと、優しく微笑む顔が目の前に広がり、あまりの綺麗さに綾人は瞳をゆっくりと開いていった。 「答えて、綾・・・。お前は今、何歳なの?」 真っ直ぐ見つめてくる瞳を見つめながら綾人は意を決したように口を開いた。 「・・・・・10歳」 消え入りそうな声に門倉が柔らかく微笑む。 「そう。・・・可愛いね」 よしよしと頭を撫でてくる門倉から目を逸らそうとした時、それをすかさず止められる。 「話してる時は俺の目を見て」 優しい声で凄む門倉に綾人の目が泳ぐ。 「10歳なら小学生5年生?6年生?」 「・・・5年生」 ポツリと答える唇へよく出来ましたとキスを落とす。 「・・・頑張って高校生演じてたんだ?」 クスリと笑って聞かれ、綾人は唇を噛み締めて視線を伏せた。 「あ!責めてるんじゃないよ?頑張ったなって思って。偉かったね」 笑いながらまた頭を撫でて、門倉は噛み締められた唇へキスをした。 優しい門倉に綾人は震える息を長く吐き出した。 まだ痛いぐらい心臓は鳴り響いているが、カミングアウトをして心が軽くなった気がする。 「先生・・・」 「ん?」 「先生に会いたい・・・・」 自分の秘密を口にして軽くなる心に動揺が走り、綾人は再び速水に会いたいと強請った。 「ん〜・・・。綾ちゃん、あいつに頼るのそろそろ止めようか?」 ほんのり不愉快さを滲ませる笑顔で門倉が言うと綾人は眉を垂らして困惑して黙り込んだ。 身内もいなければ頼る人もいない。 患者と先生でそれ以上の関係ではないけれど、自分の全てを知る人だったものだからそんなことを言われると困った。 「っで?先生より、話の続きして?」 ふわふわの少しウェーブがかった髪をちょんちょんっと指先で揺らしながら門倉がせっつくと綾人はまた体を強張らせた。 「・・・・何、話せばいいの?」 不安な目を向けて聞いてくる綾人に門倉がにこりと微笑む。 「何が話しやすい?好きなことから話していいよ」 「・・・・」 そう言われて綾人は口を閉ざす。 両親のことだろうか? それとも、親戚? 知られていても出来れば口に出したくはない。 知られていないものがあるのなら、絶対に知って欲しくなくて綾人は奥歯を強く噛みしめた。 「綾・・・。俺、言ったよね。全部知ってるって」 だから、隠そうとするなと門倉の目が告げてきて綾人は体を竦めてまた緊張で身を固くした。

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