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第138話
重だるい体を再び綺麗に洗い流してくれた門倉は丁寧に綾人を扱った。
体を拭いて、着替えにと自分のTシャツを着せてやる。
体格差が違うことからだぶだぶのシャツは綾人の太ももまで隠れてワンピースのようだった。
門倉は下着と寝巻きのジャージのズボンだけ履くと綾人を横抱きにして脱衣所を出た。
「・・・うそ。綺麗になってる」
自分が嘔吐しては汚したベッドは綺麗にシーツが変えられていた。
更にはテーブルの上には水やお茶、綾人の好きなカルピスの飲料水が並んでいて、いちごにメロンにパイナップルと豪華な色とりどりのフルーツが大皿に盛られていた。
どうやら、風呂場へ行く前に電話をかけていたのはこの準備をさせたらしい。門倉はソファの上へ綾人を座らせると、テーブルの上の水の入った瓶を手に取り、コップへと注いでグッと飲み干す。
「綾も飲む?カルピスの方がいい?」
「え・・・、あ、うん・・・」
戸惑いながらも甘いものがいいとカルピスに目を走らせると門倉はカルピスをコップへと注いだ。
「どうぞ」
自分の隣へ腰掛けてきて丁寧にストローまで刺してくれたカルピスを受け取ると、こくこくと喉を潤わせた。
「美味しい」
甘いカルピスに笑みを溢す。
すると、いちごを手に取った門倉が綾人の口元へ運んできた。
「お腹空いてるでしょ?ちょっと食べてごらん。もうすぐサンドイッチやお粥も届くと思うから」
吐いた自分の胃を心配してくれているのか食べられそうなものを注文してくれている様子の門倉に綾人は申し訳なさに顔を伏せた。
「なんだか・・・、ごめんなさい」
「え?」
「僕、もう大丈夫なんで・・・」
ソファから立ち上がって自分の部屋へ帰ろうとしたとき、ぐっと腕を掴んで引っ張られた。
「わぁっ!!」
膝の上へ再び座らされる形となり、綾人は赤面する。
「あ、あ、あの!もうこれ以上は迷惑・・・」
「迷惑じゃないから甘えて」
ピシャリと言い放つと、門倉は綾人の体を抱き締める。
「綾はちょっと良い子過ぎるよ。もっと俺を頼るべきだ」
チュッと頬へ音を立ててキスをされ、恥ずかしさで体が強張った。
「恋人なんだから、甘えてよ。ね?」
よいしょっと、ソファの上へ再び座らされると先ほどのイチゴがまた口元へと運ばれた。
「食べてごらん。甘いから」
柔らかく微笑む優美な笑顔が美しい
綺麗なその顔と涼しげな声に誘われて口を開くと甘酸っぱいイチゴが口の中を満たした。
「んっ・・・、甘くておいひいです」
もぐもぐと大好きなイチゴを頬張る綾人に門倉はまた一つ、また一つとイチゴを差し出した。
少しして、門倉が言っていたように黒のスーツを着た数人の男がお粥や雑炊、サラダや少しボリュームのあるサンドイッチを持ってきた。
それらを二人で少しずつ食べると門倉は綾人の手を引いて一緒のベッドへと移動する。
今日の一日の変動に加えて深夜を回ったことから綾人はクタクタだった。
門倉の腕の中で安心するようにウトウトと眠りにつきそうでなかなか付けない。
その理由は・・・
さっきから心臓が痛いほど鳴り響くから
こんな緊張感を感じたことは初めてで綾人はどうしたらいいのか分からず、門倉の腕の中で身じろいだ。
「綾?眠れない?」
すると、まだ眠りについていなかった門倉が声をかけてきてビクリと体を跳ねさせた。
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