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第140話

あの従兄弟の事件から一週間、門倉と綾人の距離はグッと縮まった。 門倉も帰省はせずに盆休みは寮へ残り、綾人との時間を密に過ごした。 頑なだった綾人の態度はとても砕けたものとなり、確実に心を開いては門倉に懐き始める。 それが可愛くて、門倉は片時も綾人の側を離れることが出来ずにいた。 「夕涼み会、一緒に周ろう?」 夜、情事後の気怠さに目を閉じようとしたとき、門倉に手を握り締められて誘われた綾人は瞳を開いて美しく整った王子の顔を魅入った。 「夕涼み会?」 「うん。30日は一日、体が空くから一緒に周ろう」 夏のお祭りだと聞いたその催し物にはかなり前から興味はあった。それを門倉と周れるのかと思うと更に喜びが生まれる。 「うん!」 素直な返事と愛らしい笑顔を見せる綾人に門倉はそっと、小さな体を抱き寄せる。 「可愛いな〜・・・。はぁ〜。もう、生徒会の仕事も頑張れるよ。いっぱい遊ぼうね」 綾人の頬へ頬擦りしては頭やおデコ、瞼へキスをして愛情表現を示す。 それがくすぐったくて声を上げて笑う綾人は幸せに包まれた。 綾人は次の日もまた次の日も、寮生達が帰省から戻ってきた今日も門倉の部屋から出て行かずに同じ部屋にて日夜過ごした。必然的に周りから孤立していったのだが、別にそれでもいいと思えた。 門倉との時間を優先にしたいと思ったのだ。 そんな夏休みもあと僅か。 門倉は毎朝、早くから夕方まで生徒会業務に追われては外出している。 綾人はというと、昼ぐらいに目覚めては門倉が用意する昼食を一人で食べてだらだらと過ごし、門倉の帰りを待つ毎日を送っていた。 「暇だなぁ〜・・・」 携帯電話片手にベッドの上にてぼんやりと天井を眺める綾人はボヤいた。 自分の携帯電話は常に鳴り続く。 親衛隊を始め、クラスメイト達からの遊びのお誘いが引っ切り無しなのだ。 自分の部屋に入れば直々に誘いに来る輩もいたが、ここは門倉の部屋ということもあって、そんな勇者は一人としていなかった。 遊びに行ってもいいのだが、門倉以外の人間と会うのが億劫で綾人は誰にも返事を返さずにひたすらダラダラしていた。 「暇だなぁ〜・・・」 また同じ言葉を呟いてゴロンっと、寝返りを打つ。 暇は暇なのだが、何もしたくない。 門倉とだけ過ごしたいのだ。 時計を見るとまだ昼の2時。 どれだけ早くても門倉の帰宅は6時になる。 溜息を漏らして体を起こすと、所在無さげに綾人は部屋の中を闊歩した。 そして、ふと思い付いた。 「門倉先輩に会いに行こうかな・・・」 言葉にしたそれはとても心を弾ませるもので綾人は直ぐに身支度を整えた。 手ぶらで行くのも何なので、一回エントランスにて手土産のジュースやお菓子を大量に買った。 差入れと称して生徒会室へ行こうと、そのまま綾人は学校へと駆け出した。

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