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第141話
ドキドキする
門倉先輩、驚くかな
浮き足立つ気持ちで生徒会室に行く為の最上階へと続くエレベーター前に立つ。
早く早くと、降りてくるエレベーターを逸る気持ちで待った。
そのとき、近くの階段で言い合いをするような声が聞こえてきた。
その一人はよく知る門倉のものに似ていて綾人はもしやと階段へと音を立てずに歩く。
壁からそっと顔を覗かせると、まさしくそこには門倉がいて綾人は顔をパァっと輝かせた。
「か・・・」
門倉を呼ぼうとしたとき、揉めていた男がいきなり門倉の胸へと飛び込んだ。
それを見た綾人は言葉を呑み込み、目を見開いた。
抱き着かれた門倉は少し困った顔をしてはその小柄な男の子を優しく抱きしめる。
え・・・・?
ドクンッと、心臓が大きく波打ち視界が揺らぐ。
どういうことかと思考が停止した瞬間、門倉はその男子生徒の顎を掴んで上を向かせるとその生徒の唇へ己の唇を落とした。
それをしっかりと見てしまった綾人はサッと壁に隠れた。
「ほら。これで落ち着いた?」
「・・・・・はい」
「じゃあ、もう戻って。あと、このことは秘密だよ」
「はい」
優しい門倉の声が耳を打ち、泣いていたのか、男子生徒の声は掠れていたが何処か嬉しそうな声に綾人の心はスッと冷え切っては真っ暗で深い谷底にでも突き落とされた喪失感と絶望感に陥った。
遠ざかっていく二つの足音に綾人は呆然と立ち尽くす。
どれくらいその場に居たのか、気が付けば腕時計の針が5時を指して足元に置いていた差入れにと買った大量のジュースやお菓子を手に綾人は寮へと戻った。
門倉の部屋ではなく、久しぶりに自分の部屋へと戻ってきた綾人は暑い室内に冷房を付けることもせずにそのままソファへと腰掛けた。
サウナ状態の部屋に汗が吹き上がるが、今は指一本動かすのもしんどくてとてもクーラーを付ける気になれない。
考えたいことはある。
あるのだが、その度にあの門倉が男子生徒へキスをした場面が瞼に浮かんでは胸が苦しくて何も考えたくなかった。
「・・・・僕のこと、好きじゃないの?」
俯き、膝の上で握り締めた拳にポツリと水滴が落ちた。
汗かと思ったがそれはどうやら自分が知らず内に流した涙のようで、綾人は腕でぐいぐい目元を拭う。
けれども、止めどなく流れては溢れ出る涙は止まらなくて綾人は詰めていた息を吐いて、泣き声をあげた。
好きって言ったのに・・・
昨日も一昨日も・・・
その前だって門倉は毎日、愛を囁いてくれた
同じ気持ちだと思った。
だけど、もしかしたら・・・
門倉の好きは自分と同じ好きではないのかもしれない
自分の立場をもっと理解しなければならないと思い知った。
2年間の恋人
自分は門倉の暇潰しの恋人なのだ
分かっていた事実を目の当たりにした綾人はそれが悲しくて顔を覆って泣いた。
「・・・っう、・・・ひっく、・・え〜んっ・・・、悲しい・・・。好きなのに・・、僕だけ本気になっちゃった・・・っ・・」
泣きじゃくっては両手で顔を覆う綾人は背中を丸めて泣いた。
好きって分かった途端、失恋が確定した
本気になれば捨てられる未来が鮮明に目の前に広がる
唯一の救いは自分がまだ門倉へ「好き」だと伝えていないこと
声に出し、伝えたらきっともう止まらない
そう思うと怖かった
嫌われたくない
捨てられたくない
その想いに胸が苦しくて・・・
綾人は胸元のシャツを握り締めて、細く息を吐くとソファの上へコロリと横になり、瞳を閉じた。
2年間の恋人
好きとは言わない
引き際は美しく、門倉に嫌われないようにと胸に誓いを立てた。
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