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第144話
あの食堂の一件から残りの夏休み、綾人は一度も門倉に会わなかった。
今日は夕涼み会で一緒に周ろうと約束したが、その約束自体が生きているのか分からなくて気が塞いだ。
「・・・誘ってもいいのかな」
制服を着てポツリと呟くと綾人は部屋を出た。
途端、部屋の前に群がっていた親衛隊達が浮き足立って自分を取り囲む。
「白木!今日、一緒に周ろうぜ!」
「何でも好きなの好きなだけ買ってやるよ!」
「白木の好きなとこ周ろう」
顔を赤くして嬉しそうに詰め寄ってくる男達に綾人はたじろぎながらも、上目遣いで申し訳なさそうに謝罪した。
「あ、ごめん・・・。僕、門倉先輩と約束してて・・」
男達はガックリと肩を落とすとやっぱりかと呟く。
「そっかぁ・・・。うん。そうだよな」
「門倉先輩かぁ・・・」
「・・・最近、仲良いもんな」
意気消沈しながら背中を丸めてトボトボと歩いて去っていく親衛隊を見送りながら、綾人も今から本当に門倉と周れるのだろうかと、気を揉んだ。
学校前へ来るとそこはいつもの学園の雰囲気を覆すもので、綾人は息を呑んだ。
空高くにはまだ明るいのに大きな打ち上げ花火が上げられ、派手にパーティー開始のセレモニーが始まり出す合図が起こった。
正門へと続く道には華やかなレッドカーペットが敷かれており、門前にはオーケストラが有名曲を生演奏している。
「・・・凄い」
自分が知る学校で間違いはないのだろうが、その学園は自分の目を疑うほどに姿を変えていて綾人は開いた口が塞がらなかった。
遠目から見える校庭には煌びやかな衣装に身を包む大勢の男女がパーティー開始のパレードを行っていた。
ゾウが二頭いて、華美な装飾品を体に施され、校庭をぐるりと一周したり、体育館ではイリュージョンなどを披露する大規模な手品が行われているらしく、大きな歓声が湧き上がっている。
廊下や移動箇所には高級料理店が屋台を出していて、華やかで優雅すぎるそれは学校行事とは到底思えない出来事に唖然とした。
もう、異空間に突入したとしか思えない見栄えと内容に感心しながらも、門を潜って歩いていたら、女の子特有の黄色い声が湧き上がった。
目を向けると、とてつもない数の女の子の集る一角を見つける。
「・・・・門倉先輩」
その幾人ものの女子に囲まれているのは自分の探し人である門倉だった。
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