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第145話
「キャー!門倉君!!握手してぇーーー!!」
「抱きしめてー!」
「キスしてぇーーー!!」
ギャアギャア目の色を変えては自分に詰め寄る女子に門倉は優雅に微笑みながら一人一人に対応していた。
「凄く可憐な手だね。爪なんて貝殻のようだ」
キザったらしいごたくを並べては女の子の手を握りしめ、甘い言葉を囁く。抱きしめてと強請る女子には快く逞しい胸元に引き寄せてやり、キスをせがむ女の子には手の甲に恭しく口付けをしていった。
御伽の国の王子様は久々の女の子にご機嫌ご満悦のようだ。
「・・・・・」
少し離れた場所からジトッと睨み付けていたら副会長の九流が女の子達を押し退けて門倉へと近付いた。
「お前、はしゃぎ過ぎ!これ、指示よこせ」
生徒会の仕事のようでプリントを一枚差し出してくる九流に門倉は満面の笑顏で受け答えした。
「やっぱり、女の子っていいな!柔らかいし、良い匂いするし、なんてったって可愛い!!」
女好きの門倉の癖が炸裂するなか、九流は呆れたように溜息を吐いた。
胸ポケットからボールペンを取り出した門倉は突き付けられた用紙へ指示を書いて九流へ手渡す。
「別にお前がいいならいいけど、そこに白木がいるぞ」
プリントへ目を走らせて、納得した九流は帰り際、親指を綾人へ突き刺して浮かれまくる幼馴染みへ告げた。
その言葉に目を見開いて自分を見てくる門倉に綾人は居た堪れない思いで瞳を伏せた。
✳︎
「僕に触らないで!」
「綾ちゃん!何、怒ってんの?」
自分の存在に気付いた門倉は女の子達を撒いて駆け寄ってきた。
男である自分に好きだと言い寄り、この体を好き放題抱き潰した結果、やっぱり女の子がいいような発言を口にしていた門倉に綾人は悲しさを通り越して怒りが湧き上がった。
一人になりたいと避けるように早歩きして去ろうとする自分を追いかけてくる門倉が憎らしい。
もう、全てが嫌で仕方がない。思い切り門倉を全身で拒否すると、それを困り果てたように機嫌取りをしてくる門倉は、予期せぬ人物に呼び止められた。
「門倉先輩!?」
「え?」
振り返るとそこにいたのは綾人と同じのクラスメイトの西條 ざくろだった。幼馴染みの九流の恋人であり、少し訳ありの関係性を持つ門倉はざくろへ心を許しているのか、助けてくれと言わんばかりに目を走らせては頼り始める。
いつも強気で余裕風を吹かせる男のこのような姿にざくろは目を見張ると、門倉を参らせている人物に更に驚いた。
「白木君‼︎?」
ざくろに名前を呼ばれ、綾人は不機嫌に歪めていた顔を門倉への嫌味も兼ねてざくろへにっこり天使の微笑みを向けた。
「おはよう、ざくろ君」
「おはよう・・・、白木君って門倉先輩と知り合いだったんだ!?」
知らなかったと目を瞬かせるざくろに綾人はちらっと視線を門倉へと向けた。
「まぁ・・・一応、付き合ってるから」
「えぇ!!?そうなのっ!?」
すこぶる不機嫌な綾人に目を見開いて、ざくろは叫んだ。
「門倉先輩の恋人!?びっくりだよ!でも・・・、そうだね・・・、白木君可愛いもんね」
自分のことを全身眺めては納得だと頷くざくろに綾人は苦笑しながら呟いた。
「ざくろ君にそれ言われてもなぁ・・・」
魅惑的な容姿を持つざくろ相手に世辞を言われてもピンとこなかった。だが、ざくろ自身、そんな自分の容姿に無頓着でそれがおかしくて綾人は天使と名高い笑顔を向ける。
「ざくろ君、今から予定は?」
「え?午後から家族が来るまでないけど・・・」
「それなら僕と午後まで一緒にいない?」
「え?門倉先輩は?」
「・・・そうだね。なんだか、女の子と忙しそうだし午後からでも都合が合えば周ろうかな」
門倉へ視線を向け、剣を込めて微笑む綾人に、この日の激務をかい潜り、休みをもぎ取った学園の王子様は溜息を吐いた。
今はこれ以上、何を言っても無理だと察した門倉は時間を開けてまた綾人の機嫌を伺おうと踵を返して去っていった。
「ちょっ、門倉先輩!って、白木君、いいの!?明日は門倉先輩、生徒会の仕事でがんじがらめだよ?」
「うん。知ってる。知ってるけど・・・」
所詮、僕はその場しのぎのおざなりな恋人だから・・・
遠のく門倉の背中を見つめ、痛む胸に泣き出してしまいそうな綾人はそれを阻止するように瞳を閉じた。
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