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第149話
え!
えぇ!?
えぇーーーー!!?
学校へ着くなり綾人は一般人含み、大勢の男達に追いかけ回されていた。
「白木ぃぃいーーーー!」
「天使がっ!天使が女神になったぁぁあーーっ!」
「一回だけでいい!抱き締めさせてくれーーー!!」
大声を上げ、ウオォーーーっと必死の形相で追いかけてくる男達から綾人はかつてないほどのスピードで校内を走りまわっていた。
ヤバい!ヤバい!!ヤバいぃーーー!!!
これ、捕まったら・・・
考えるのも怖くて綾人は無我夢中で走り続けた。
丁度曲がり角に差し掛かったとき、ほんの少し扉が開いている部屋を見つけ、そこへ飛び込む。すかさず鍵を閉めて気配を消すかのように口元を覆ってしゃがみ込んだ。
走ったせいで息が上がり、苦しい。
音を立てないようにフーフー呼吸を繰り返していると、外で幾人ものの男達の声が聞こえてきた。
「あれ!?白木、何処いった?」
「マジかよ!見失うとかありえねぇっ!」
「クソっ!ここか!?」
ガタガタッと扉を揺すられ、バレたと体を飛び跳ねらせたが、鍵が閉まっている事から男達は違うと判断したらしく、再びボヤき始めた。
「鍵、掛かってるな。つーか、マジで何処いった?」
「もっと奥の方かな?」
「追いかけるか・・・」
バクバク飛び出してきそうな心臓の音を耳の奥で鳴らしていると、同時に男達の遠ざかっていく複数の足音が廊下へ響いた。
徐々に聞こえなくなっていった足音にホッと安堵の息を吐き出す。
「よ、良かったぁ・・・」
扉を背にズルズルと体から力を抜いて安心感に浸る綾人はここで初めて自分が飛び込んだ部屋に注目した。
そこは演劇部の部室だったらしく、沢山の衣装が部屋中の簡易ラックのつっかけ棒にハンガーで吊るされていた。
中には色とりどりのカツラまで揃っていて、立ち上がると、綾人は自分と同じ蜂蜜色をした長いカツラを手に取った。
「これでも被ったら、変装になるかな?」
鏡の前に立って装着してみる。
背中までの長い髪は緩やかなウエーブが掛かっていて少し癖っ毛のある綾人の髪質と一致した。
違和感を感じるどころか、とても似合っていて、何処から見ても完全な女の子の自分の姿に安心する反面、悲しくもなった。
髪をロングにするだけでいつもの雰囲気も変わり、パッと見では白木 綾人とバレそうにないと思った綾人はこのカツラを借りる事にする。
完全なる女の子を演じていれば、あの男達もあんな追いかけ方はしないだろう。
それに・・・
「門倉先輩もきっと喜ぶ・・・」
男よりも女の子が好きな門倉
今日のはしゃぎ様を見た限りではこの姿で一緒に周った方が喜ぶであろうと綾人は踏んだ。
「って、もう、2時だ!!」
ふと、壁に掛かっていた時計が目に飛び込んできて、綾人は焦った。
門倉を探していたのだが、全くスムーズに事が進まなくて困惑した。
もしかしたら女の子を引っ掛けて、もう自分はお払い箱なのかもしれないという不安にも駆られた。
もし、そうなら・・・
「身を引くべきだよね・・・」
溜息を吐いて、己の潔さを発揮させる。
ここは、「遊びの恋人」ならば笑顔で門倉を手放さなければいけない線引きだと心に刻む。
女の子に見えても中身は男だ。
本物の女の子に勝てる気がしなかった。
少し沈む気持ちで顔を上げると、門倉の為にした女装の努力を実らせたい綾人は部屋の鍵を開けると、最後まで諦めないと再び校内を走り出した。
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