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第153話
「・・・桜田君だっけ?綾にちょっかい出すのやめてくんない?」
優雅な微笑みで牽制する門倉の瞳は笑ってはいない。
敵意を示し、冷ややかで怒りを伴うその冷徹な瞳に桜田は真っ向から立ち向かった。
「女の子はべらせてるあんたにそんなこと言われる筋合いないと思いますけど?」
「俺、こいつの恋人なんだけど。てめぇこそ、中学からのダチってだけで、イキってんじゃねーよ」
門倉の顔から笑みが消え、いつもからは想像できないほどの口の悪さが繰り広げられ、それを見ていた女の子達が不穏な空気に固まった。
「・・・白木から手、離せ。フられるにしても俺は白木の口から聞きたい」
綾人へ手を伸ばす桜田の腕を門倉はバシンっと叩き払った。
「こいつは俺のモンだっつってんだろ。ジャリがっ!殺されたくなかったら消えろ」
憎々しげに吐き捨て、凄みを利かせた門倉に綾人が青褪めた。
門倉と一悶着起こせば、その実力から桜田が血を見るのは明らかで綾人としては何としてもそれを避けたい。
「か、門倉先輩!やめて下さい!!僕、桜田と・・・っ!」
話をつけると言おうとした時、パシンッといきなり頬を叩かれ、綾人は何が起こったのか目の前を揺らした。
「俺よりこんな奴を取るのか?フラフラ歩き回ってやっと見つけたと思ったら、そんな馬鹿みたいな格好で男、連れ歩きやがって。この尻軽野郎!」
ドンっと、体を突き放され、なじるように投げ付けられた言葉に綾人は言葉を失った。
叩かれた頬だけがジンジンと痛みを孕み出し、頭の中が真っ白になる。
そんな綾人へ背を向けると、門倉はシラけたと女の子達の群れの中へと戻っていこうとした。
それを見た桜田が綾人を慰めるように手を差し出したとき、遠ざかっていく門倉の背中へ綾人は履いていたピンクのヒールを片方脱ぐと、奥歯を噛み締めて靴を思い切り投げ付けた。
「死ね!この馬鹿ぁ!!お前なんて大嫌いだっ!!!」
大声で門倉を罵倒して、蜂蜜色の瞳にいっぱいの涙を溢れさせる。
投げ付けられたヒールは背中にヒットし、足元に落ちたそれを拾った門倉は綾人を振り返った。
驚きに見開かれた紅茶色の瞳を前に綾人はずっと心に溜めていた言葉を叫んだ。
「誰のためにこんな格好したと思ってんの!?いつ会いに行っても女の子侍らせて、僕のこと邪魔者扱いしてんのはそっちじゃんかっ!!女の子がいいって言うからこっちは我慢して身を引いてやってるのに、何でそんな言われ方しなきゃダメなの!?もう・・・」
ボロボロと涙を流してワンピースの裾を握りしめる綾人は門倉から視線を落として呟く。
「もう・・・、疲れた・・・・」
言いたいことを言って、一気に脱力したのか、その場にしゃがみ込み綾人は涙声で笑って門倉を送り出す。
「もう、行って・・・。僕は僕で楽しむから。先輩はせっかくの女の子達なんだし、楽しみなよ」
俯いたままヒラヒラと手を振り、溜息と共にその手が落ちる瞬間、その手を引っ張り上げるように体を引き起こされた。
「っ!!?」
驚いて顔を上げると、今度はふわりと体が宙を浮き、横抱きにされて気がつくと不機嫌な顔が目の前に近付いていた。そして、そのまま勢いに乗って唇を奪われると、門倉は周りに見せつけるように綾人を抱き締め、愛を囁いた。
「好きだよ・・・。他の女なんて目に入らないぐらい綾が俺の一番だ」
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