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第二章・161話
「やーーーだぁぁぁあーーーー!!!」
大きな声を上げてバタバタと校内を走り回るのはこの世に舞い降りた天使と称されては、はやし立てられる立春高校一年生、白木 綾人だった。
放課後、一緒にゲームをしようと下心満載の顔を向けてはベタベタ体を触ってくる同級生に気持ちが悪いと逃げ惑う。
そんな綾人がまた可愛いと追いかけ回す男がまた一人、また一人と廊下を走る度に増え続けては長蛇の列を作り上げて寮までの道のりを駆け抜けていた。
ドドドドドッと、駆け抜ける綾人を三階渡り廊下より気が付いたのは綾人の恋人の門倉 優一だった。
夏の大イベント夕涼み会の行事が終わり、ホッとするのも束の間で今は来月に行われる運動会の行事に生徒会役員として働いていた。
「お前の恋人は相変わらず、やかましい奴だな」
隣を歩く幼馴染みの九流 猛が呆れたようにボヤくのを門倉は全くだねと苦笑した。
今日は金曜日。
綾人が部屋へと訪ねてくる約束の週末だ。
「今日って西條はバイト休みだっけ?」
門倉は九流の最愛の恋人、西條 ざくろの名前を引き合いに出す。
小さく頷く九流に門倉は少し思案した後、にっこり笑って提案した。
「また月曜日から頑張るってことで、今日は帰んない?」
綾人と過ごしたい一心から生徒会の仕事を放りだそうと、門倉が悪の囁きを口にした。
九流もまた、部屋に戻るとざくろがいると思えばその囁きを無下にすることが出来ず・・・
「月曜日からまた頑張るか!」
二つ返事にてその案に乗ると、二人して踵を返して寮へと戻って行った。
「綾ちゃ〜ん!」
門倉は寮へ戻ると自分の部屋ではなく、綾人の部屋へと直行した。
扉をノックして綾人を呼ぶ。すると、扉を開いた綾人の顔が驚きに変わった。
「え‼︎?門倉先輩‼︎?」
その声は心なしか嬉しくなさそうで、門倉は内心ガッカリするが、いつもの笑顔を保った。
「今日、生徒会休みになったんだ。だから、一緒に過ごそう」
部屋においでと誘ってくる門倉に綾人は気まずそうに視線を伏せて冷や汗を流す。
明らかに何かを隠している様子の綾人に門倉はにーっこり微笑んで距離を詰めた。
「何かやましいことあるの?」
「へ!?な、ないよ!!ざくろと宿題の約束してただけだもん!」
ぶんぶん首を横へ振っては否定する綾人の口から西條 ざくろの名前が飛び出した。
綾人とざくろは夕涼み会の日から何故か急激に仲良くなった。
同じクラスということもあり、いつも行動を共にしている姿を見かける。
ざくろは九流の恋人ということもあって、信頼するに値する存在なことから門倉も安心なのは安心なのだが、いかんせん。
このおてんば天使が時として悪知恵を働かせては二人で外出を試みる傾向があった。
友人と外出することが悪いわけではないのだが、組み合わせがこの二人なだけに心配と不安が募った。
見目麗しい二人に寄ってたかる蟻はごまんといる。その認識不足が悲しきことに二人には欠けていて門倉と九流はいつもヤキモキさせられていた。
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