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第162話
「綾ちゃん。素直に白状したらお仕置きはなしにしてあげるよ」
自分を出し抜こうとする行為だけは許さないと厳しい目を向けてくる門倉に綾人は拳を握り締めて言い返した。
「白状も何もざくろと一緒に宿題する約束しただけだもん!」
「ほ〜」
目が泳ぐ天使を横目にそれならと、門倉は携帯電話を取り出して九流へ電話を掛けた。
「もしもし。そこに西條いる?変わってほしいんだけど」
『ああ。待てよ。・・・ざくろ、門倉から』
九流へ電話を掛けた時点で綾人はわたわたと慌てだしては顔を青く染めていった。
それを見て見ぬフリをしながら門倉は電話に出たざくろへカマを掛ける。
「あ!西條?俺、俺!あのさ、綾が今日の外出はまた今度にして欲しいって言ってて。悪いんだけど別の日に変更って出来るかな?」
『そうなんですか?もちろん、俺は大丈夫ですよ。今日は九流先輩も早く帰ってきましたし』
爽やかなざくろの声は電話口から漏れてきて、綾人は顔を両手で覆ってその場にしゃがみ込んだ。
「っで、どこに出かける気だったわけ?」
『パンケーキを食べに行こうと思ってただけですよ。食べたら直ぐに戻ってくる予定でした』
「パンケーキねぇ〜・・・。へぇ〜、そっか。ありがとう」
冷ややかな目でしゃがみ込む綾人を門倉は見下ろしながら電話を切る。
恐怖に硬直する綾人を腕を組んで見下ろすと、門倉は満面の笑顔で宣告した。
「綾ちゃん。今夜は楽しみだね」
ほぼ連行される形で綾人は門倉の部屋へと訪れた。
言い訳に使った数学の宿題を取り出して、テーブルの上に開くと門倉の機嫌を取るように必死に言い募った。
「あ、あのね!パンケーキを食べながら宿題をする予定だったの!本当だよ?」
「・・・・」
「外出するのを言うの忘れてただけで・・・」
「綾ちゃん。無駄な抵抗とか言い訳したらお仕置きのペナルティ加算するよ?こう見えて俺、結構怒ってるからね」
綾人の隣に腰掛けてノートパソコンのキーボードを叩く門倉は淡々と答えながら生徒会業務をこなしていた。
ぐうの音もでない綾人は半べそをかきながらシャーペンを握り締めて問題集に取り組む。
以前、ざくろとの外出を反対されたときに抵抗をしたら拷問紛いなお仕置きを、受けたことがあった。それでも、門倉の束縛に屈したくなくて体を押してざくろと出かけたのだが、タチの悪いナンパに遭ってしまいそれを門倉と九流が助けに来てくれたのだが、その後も思い出したくもないぐらい悲惨な目にあったのを綾人は忘れていない。
その恐怖が再び訪れるのかと思うといてもたってもいられなくて宿題どころではないのが本音だ。
だが、これ以上何かを言ったりしたら余計に門倉の怒りを煽りそうで綾人は肩を落とし、しんみりと気を塞ぐように宿題を解いていった。
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