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第169話

あの男は、ほんっとヤる事しか考えないの? あの品性ある顔立ちとは裏腹に品の一欠片も感じられない性的要求をしてくる門倉に綾人は、げんなりしていた。 毎週、毎週、楽しそうに自分をいたぶる男は恍惚としていて、本物のドS性癖の持ち主なことを痛感する。 「土曜日・・・、楽しみだな」 寮の部屋へ戻って、鞄を勉強用の机の上へ置くと同時に卓上カレンダーに目を向ける。 仲の良い友人と出掛けられるだけでも嬉しいのに、恋心を寄せる門倉とも出掛けられるとなると喜びは2倍だ。 契約上の恋人で線引きをした恋だが、嬉しいものはやっぱり嬉しい。 出来るものなら、今回の外出では喧嘩をしたくないと綾人は願った。 制服から部屋着へ着替え終わったとき、携帯電話が鳴り、ディスプレイを見ると相手は中学の時の同級生、桜田からで綾人は電話に出るか悩んだ。 個人的には桜田と会話をしたいのだが、あの門倉が想像以上に桜田と絡むことを嫌がるのだ。 電話に出たことがバレたら喧嘩は必須で、綾人としては要らぬ火種はまきたくないのが本音だった。 しかし、あの夕涼み会の日から半月、毎日電話をしてくる桜田を無視し続けるのは流石に胸が痛くて辛い。 公の場で告白を受けたことを思い出し、あの時の返事もまだしていないと気持ちを塞いだ。 そう思うとやっぱり電話に出るべきだと綾人は考えを改めて、そっと携帯電話の画面をタップした。 「もしもし・・・」 『もしもし、白木?』 「うん。あの・・・」 電話になかなか出れなかったことを謝ろうとした時、桜田が堰を切ったように謝罪してきた。 『白木!俺、しつこく何度も電話してごめん!避けられてるのは分かってる。でも、一度でいいから会ってくれないかな?振られるなら顔を見てお前の口からハッキリ聞きたいんだ。そうじゃなきゃ、踏ん切りが付かなくて・・・』 切実に言い募る桜田の声に綾人は言葉を詰まらせると桜田は続けた。 『ごめん。俺の我儘なんだ。でも、頼む!』 粘り強く頼んでくる桜田に綾人は胸が熱くなった。もし、自分が逆の立場でも桜田のように求めてしまうと思ったからだ。 そして、それだけ本気で自分を想ってくれているのだと嬉しかった。 「桜田・・・、ありがとう。うん。会おう。僕も会って話がしたい」 綾人は静かにそう告げると、また日程を決めようと電話を切った。 一瞬、門倉のことが頭によぎり、ほんの少し罪悪感に苛まれた。しかし、直ぐに首を左右へ振って考えを変える。 門倉先輩だって、浮気してるもん それに、僕のこれは浮気じゃない 友達と話し合いするだけ やましいことはないし、裏切りでもないと自分に何度も言い聞かせると綾人は携帯電話を机の上へ置いた。 そのままソファへ移動すると、コロンっと仰向けに転がる。 白い天井を眺めて想いを馳せるのは門倉の事だ。 どれだけ酷い仕打ちをされても落ちた恋心はどっぷりとあの男に溺れた。 身動きが取れなくて苦しい オモチャのように扱われても、他で浮気されてもこの想いは募るばかりで怖かった。 自分の中の恋心が少しでも別の何かで発散出来ればいいのに・・・ あの男と付き合うのなら、それぐらい器用にならなければやっていけないと溜息が自然と漏れた。 「・・・・好きって苦しいんだな」 願わくば、二年後に失恋した後、もう一生、恋なんてしたくない。 綾人はそう思いながらゆっくりと瞳を閉じた。

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