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第172話
「はい!完成!!」
しっかり髪を乾かしてくれた門倉はパチリとドライヤーの電源を消すと綾人の頭へキスを落とす。
「ありがとうございました」
お礼を言って振り返ると、今度は朝御飯を食べようと綾人に誘われた。
門倉家の執事が用意した朝食は既にテーブルの上へセットされていて感嘆の声を上げた。
「美味しそう!!」
バケットやクロワッサンに生ハムやスライスチーズ、卵にアボガドなどが挟まれたものや、シュリンプと豊富な野菜がメインのものもあり、何種類もののサンドイッチに綾人はテンションが上がった。
「綾はなにが好き?」
「エビとアボガド!」
「生ハムも美味しいよ?」
「生ハムはまだイマイチ美味しさが分かんないからいい」
足をパタパタさせてはエビ、エビと、両手をバンザイさせる綾人に門倉がエビとアボガドがサンドされたバケットを更に置いてやった。
「イチゴのフルーツもあるよ。ヨーグルトと食べる?」
「食べる!でも、イチゴだけで食べたい!」
パクッとパンを頬張りながら上機嫌に要望を伝えてくる綾人に門倉は、はいはい。とフルーツ皿にイチゴをてんこ盛り入れてやった。
どちらかというと小食気味の綾人だが、こうして好きなものばかりを並べると意外と結構食べることから門倉は甘やかせるように週末は綾人の好物を用意していた。
「いっぱい食べてもう少し太りなよ」
細過ぎる体型の綾人を気にかけては門倉が言うと、綾人は自分の体へ目を落とす。
「僕、そんなに細い?」
「かなり細い。俺が本気で抱きしめたら綾、折れるよ」
自分の体型に無頓着過ぎる発言に門倉が切実に訴えると、綾人はもぐもぐと大好きなエビを頬張りながら目を瞬かせた。
全く危機感を感じていないようだが、この夏を共に過ごして門倉は綾人の食欲のムラに心配していた。
夏バテだと言ってはカルピスしか飲まない日もあったし、またはイチゴのアイスだけで生活している時もあった。
自由奔放で気ままな綾人は好きなものと嫌いなものがハッキリ分かれている。
それは自分もそうなのだが、精神年齢が幼い分、欲望のままに行動する綾人は色々と危うさを感じさせた。
きっちり見張って、ちょこちょこと修整をかけてやらないと栄養失調で倒れるのは目に見えていた。
「好き嫌いなく、ちゃんと食べたらご褒美あげるからね」
機嫌を損ねるとご飯を食べなくなる為、優しい言葉で綾人を釣ろうと門倉は慎重になる。そして、その時、飲み物にカルピスではなく青汁を差し出した。
「げぇ!絶対ヤダ!それ飲むなら何も飲まないほうがマシ!!」
青汁を見るなり、あからさまに嫌だと顔を歪めて拒否する綾人に門倉が首を横へと振った。
「それ、飲まないと今日は外出させないからね」
「そんなの横暴だ!」
「横暴で結構」
優美な微笑みで自分の罵倒を一蹴する門倉に綾人は緑色に濁った液体を見つめて涙を浮かべた。
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