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第174話
「あいつ、何で怒ってんの?」
目を瞬かせて聞いてくる門倉に九流とざくろは呆気にとられた。
普通、恋人がナンパに遭うだけでも不愉快なものだ。それなのにその相手を褒めちぎっては次回に期待を持たせる対応を取るなど嫌に決まっている。
それを門倉はどうやら分かっていないらしい。
「門倉先輩!ちょっと、ズレてません!?」
ざくろがそれはダメと、注意をしようとしたとき、前方を歩いていた綾人が三人組の男に囲まれた。
「可愛いね!俺とお茶しないかな?」
「どこか、遊びに行こう!」
「君の好きなところに付き合うからさ〜!」
満面の笑顔で自分の前を塞ぐ男達に綾人は不機嫌に顔を顰めた。
「ご機嫌斜め?」
「つーか、可愛すぎでしょ!!」
「何でも言う事きくから、機嫌直してよ〜」
綾人の容姿にデレデレと顔を緩まるせる男達を相手に少し思案する。
門倉は女の子と遊びに行くし、ざくろは九流と水族館。自分は一人でブラブラするのも虚しいことから、この三人にパンケーキをご馳走してもらうのも悪くないかと思った。
こういった男達に声を掛けられ慣れている綾人はいつも街を歩き、都合さえ合えばこうして食事をよくご馳走してもらっていた。
「パンケーキ食べたい」
ポツリと呟くように要望を伝えると男達は歓喜に声を上げた。
「了解!了解!!パンケーキ、食べに行こう!」
「俺もパンケーキ食べたいって思ってたんだよ!」
「そうそう!行こう!行こう」
ご機嫌に綾人の周りをハエのようにまとわり付く男について行こうとしたとき、門倉の怒声が轟いた。
「綾っ!!何してるんだ!!」
怒鳴り声に驚いて振り返ると、早足で近付いてくる門倉に綾人は目を丸くした。
もう、女の子達と遊びに行ったと思っていた門倉がいることに驚いたのだ。
「僕、この人達とパンケーキ食べたら帰るんで門倉先輩は門倉先輩で楽しんで帰ってきてください」
淡々と告げてくる綾人に門倉は顔を怒りに歪めて綾人の腕を掴んだ。
「はぁ?猛と西條はどうするんだよ!?」
「ざくろ達はざくろ達でデートしたら良くないですか?」
ダブルデートを本格的に放棄し始めた綾人に怒りを爆発させた門倉は掴んだ綾人の手を離して吐き捨てた。
「あっそ!分かった。俺は俺で好きにするよ」
投げやりになる門倉の体から、ぴょっこり顔を出すと、綾人はヒラヒラとざくろと九流へ手を振った。
「んじゃ、そういう事だから〜」
本当にこのまま解散するような雰囲気にざくろは青ざめて、綾人の元へと駆け寄った。
「あ、綾!何言ってんの!?今日は四人で来てるんだよ?門倉先輩も女の子に断ったし、一緒に食べに行こう!」
綾人の空いているもう片方の手を掴んだざくろが必死に説得する。
綾人は少し悩んだ末に門倉をチラリと見上げた。
凄まじく不機嫌な顔をした門倉に嫌そうに瞳を伏せると、九流がすかさずナンパをしてきた三人組の男達を蹴散らしていた。
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