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第175話
「僕に気を遣わなくていいよ?」
小首を傾げて真顔で言ってくる綾人にざくろはこのカップルのズレた感覚に頭を抱えた。
互いに意識はしっかりしていて、ちゃっかり嫉妬もするのにそれを素直に表せれない悲しい二人だと思った。
門倉の女性に対してのサービス精神はもはや、紳士だとも思える。
が、その反面、強烈な女好きを感じた事も事実だ。綾人はそれが嫌なのだろうが、素直にそれをやめて欲しいと伝えたら、自分の女たらしさに自覚のない門倉もその事に気付くのではないかと思えた。
また、綾人に関しては知らない男にホイホイ付いて行きがちだと思った。
恵まれた容姿で街を歩けば声をかけられるのが当たり前過ぎる綾人はナンパ男達を気軽に使い過ぎる節がある。それに対して罪悪感も恐怖感もない危うさが心配なのと、門倉のこの嫉妬心の沸点の低さに驚かされた。
その癖、門倉も素直にそれを表現出来ずに突き放すような態度を取るものだから、悪循環過ぎる。
どうしたものかと悩みながらパンケーキ屋へ着くと、その時には気持ちの切り替えが早い綾人はご機嫌になっていた。
しかし、他の男に着いて行こうとした事実が許せない門倉はまだ機嫌が悪いままで、雰囲気は最悪だ。
「おいし〜!このイチゴのジャムがまた美味しい!」
パンケーキ三枚に山盛りのホイップクリームが乗っかり、大量のイチゴのジャムシロップがかかった商品を食べる綾人は大興奮だ。
見てるこっちが胸焼けしそうだと、門倉と九流が目を逸らすなか、ざくろもキャラメルソースがかかった同じものを注文していて、美味しいと頬張っていた。
「お前ら凄いな」
コーヒー片手にげんなりする九流にざくろがパンケーキを一口大に切って九流の口の前へ差し出す。
「先輩、一口どうぞ!」
満面の笑顔で差し出されたパンケーキを本音はあまり食べたくはなかったが、ざくろの笑顔が可愛いことから九流はそっと口を開いてしまった。
「あっま!」
口元を覆って悶絶した後、コーヒーを一気に飲み干した九流を横目に、甘いのが嫌いな門倉は恐ろしいとコーヒーを手に取る。その時・・・
「門倉先輩も、あ〜ん!」
無邪気な笑顔の綾人がパンケーキを一口大に切って差し出してきた。
そのパンケーキに門倉は顔を顰めて身を引いた。
「いらない!」
「えー!せっかくだし、一口だけでも・・・」
「いや、本当に甘いの食べると気持ち悪くなるから」
「でも、九流先輩だって食べ・・・」
「しつこい!」
見るのも嫌なのに目の前へ突き付けられたパンケーキをぐいぐい押し付けられ、イライラした門倉はその手を払ってしまった。
カランカランっと、フォークごと床に落ちて綾人は硬直した。
「ごめん。でも、綾がしつこいから・・・」
流石にしまったと床からパンケーキの刺さったフォークを拾うと、綾人はシュンと肩を落として新しい備え付けのフォークを手にとって黙々とパンケーキを食べることを再開した。
そんなギスギス感を放つ二人に九流とざくろは溜息を吐いた。
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