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第177話

「か〜ど〜く〜ら〜っ!!てめぇ、いい加減、白木のこと喚かせてんじゃねーよ!ざくろが俺とのデートに集中できねぇだろうがっ!」 邪魔だと怒りを剥き出しにしてくる九流に門倉は腕を組んで溜息を吐いた。 「こっちも参ってるんだって。綾がやたら、うるさくて」 「そりゃ、てめぇの女コマす発言がそうさせてんだろうがっ!あいつのこと、今までの女達みたいに扱ってリードしてみろよ!それで少しは改善出来るんじゃねーか!?」 組んでいた肩をフンッと、離すと九流が言い放つ。 「女の子と同じように・・・?」 言われた事に門倉が驚いたように目を見開いた。 「そうだよ!優しく紳士にリードしてやれ。いちいち白木の小言に付き合うな!」 その言葉に門倉はそんなことで機嫌取りが出来るならと首を縦に振った。 「綾ちゃん、何か勘違いさせたならごめんね」 二人の元へ戻ると、門倉はスッと綾人の右手を握って手の甲へ口付け、柔らかく微笑んで謝罪した。 「綾ちゃんが一番だよ。仲直りして一緒に周ろう?」 いきなり殊勝な態度に変わってはどこか違和感を感じさせるものの、優しい門倉に綾人は胸をドキドキさせながら頷いた。 順を追って水族館を眺めて行く途中も、門倉はとても優し気配りを見せる。 段差がある箇所は綾人の腰を掴んでリードし、手すりが汚れていたらハンカチで拭い、水の中を泳ぐ魚に興味を持つと面倒くさがる事もなく一緒にその魚の説明書を読んでは楽しんでくれた。 優しい時間を与えてくれる門倉に目を見張ることばかりなのに綾人の心は何故か晴れない。 嬉しいし楽しいのだが、どこか一線引く何かを感じている為、手放しに喜べない自分がいるのだ。 そう・・・、まるで決められた手順を踏む人形のようで気持ちがついていかなかった。 違和感を抱きながら綾人は門倉にリードされるままカフェへとお茶をしに入った。 いつの間にかざくろ達とは離れていて、今では二人きりのデートになっている。 「はい!綾ちゃんにプレゼント」 カルピスを飲んでいたとき、突然門倉がペンギンのぬいぐるみを差し出してきて綾人は息を呑んだ。 「これ・・・」 「うん。可愛かったから買ってみた」 水族館の売店でどうやら自分へと買ってくれたようで綾人は頬を赤くして嬉しいとペンギンを抱きしめた。 「ありがとうございます!」 はにかむ笑顔でお礼を告げてくる綾人に門倉は優しい笑みを浮かべてコーヒーを口に運んだとき、後ろから凛とした女性に声をかけられた。 「門倉くん?」 振り返るとそこには見知らぬ女が一人立っていた。 「やっぱり!今日は・・・、デート?」 綾人へちらっと視線を向けた後、モデル張りの綺麗な女は腕を組んで聞いてきた。 女子大生だろうか、とても大人びた雰囲気で余裕の空気を醸し出すその女に綾人は目が釘付けになった。 「また、可愛らしい子と遊んでるのね。今度はペンギン?私のときはラッコだったわね」 ぬいぐるみを指差しながらクスクス笑う女に門倉はいつしか遊んだ女かと肩を竦めた。 「こんにちは。今日は恋人とデートでね。昔話は悪いけど、また今度にしてもらえる?」 「あら。それはごめんなさい。子猫ちゃんに飽きたらまた、連絡頂戴。いろんな男と過ごしたけど、紳士的で優しい気配りをできる男は貴方が一番だったわ」 ふふっと、妖しく笑うと女は綾人を見下ろして告げた。 「この人、相当手馴れてるから勘違いしちゃダメよ。誰にでもそんな風にする悪いオオカミなんだから」 少し牽制するような女の言葉に綾人はストンっと今まで感じていた謎の感情が当てはまった。 ヒラヒラと手を振っては席を離れていく女に門倉は別段、気にすることもなくコーヒーを飲む。 こんな小さな修羅場などに慌てる様子も見せない門倉に綾人は自分は今まで過ごしてきたその他大勢の女の子達と一緒なのだと言われたようで失笑した。

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