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第180話
興奮から息を切らせて涙を流す綾人は門倉の胸倉を掴む手を離して、ぱたりと力なくベッドへ転がった。
いたぶるなり、なんなりと好きにしてくれと瞳を閉じて投げやりな態度を見せる綾人に門倉は優しく抱きしめてきた。
「こうして、いつも女の子をその気にさせるの?」
嘲笑うように嫌味が口を出てしまう。
だけど、悔しいことにただ抱き締められてるだけで怒りは緩和されてくる安い自分の感情に涙が出た。
世の女も女なら、自分も相当簡単な奴だと情けなくなった。
首筋へ慰めるように顔を埋められ、しなるようにキツく抱きしめてくる門倉に涙が止まらない。
優しいその手が女の子にしてると思うだけで胸が張り裂けそうだった。
好きになりたくなかった
願わくば、今すぐ嫌いにならせて・・・
「っ・・・えっ・・・ぅ・・」
泣き声が我慢出来なくて嗚咽が漏れる。それを塞ぐように口付けされて、力をなくした手が悔しいことに門倉の背を抱きしめ返した。
「ごめん・・・。綾、謝るから泣かないで・・」
唇を離した直後、涙を親指の腹で拭われて綾人に謝罪してきた門倉は苦しそうに顔を歪ませた。
「綾がどうすれば喜んでくれるか分からなくて確かに今まで付き合ってきた子のように接した。喜んで欲しくてしたけど、それが逆に綾を不快にして傷付けたなら謝る。本当にごめん・・・」
目と目を合わせて謝ってくる門倉に再び涙が溢れる。
「・・・・今後はしない。約束する」
涙を止めない綾人を胸に掻き抱き、誓いを立てる門倉に綾人の心がざわざわした。
酷い扱いをして欲しいのに優しくされると嬉しくて
優しくされると辛いのに次を期待して胸を弾ませてしまう
そんな現金な自分に嫌気がさしたが、自分だけの門倉がとりあえずここにいると思うと幸せに胸が満たされた。
好き
好き
好き
言葉に出したい
「キスして・・・」
口を塞いでくれないと己の制約が破られそうだと綾人は懇願した。
強請るとすぐにキスを与えてくれる門倉に瞳を閉じて、首へ腕を回して抱き着く。
めちゃくちゃに抱いて欲しくて挑発するように舌を絡めたが、門倉は綾人へキスを与えるだけでそれ以上のことはしてこなかった。
抱いてと恥を忍んで頼んだら、体に負担がかかるとやんわり宥められて断念した。
昨夜の情事が激しかった為、確かに一回でも抱かれたら体は不調へとなる可能性は高いと思った。
自分を想って我慢してくれているのだと思うと嬉しくて、余計抱いて欲しかったが、門倉に脱いだ服を着せられてしまう。
「ご飯食べよう?っていうか、デートの仕切り直ししようか?」
時計を見ると時刻は夕方の5時だ。
デートをすると、いつも決まって喧嘩になることから不安は過ぎったが小さく頷いて綾人はホテルを出た。
「いい眺めの場所があるんだ!まだ日も高いし、見せてあげられるかも!」
笑って手を引く門倉につられて綾人も駆け出す。
胸が嬉しさに弾み、この人が笑うと自然と笑顔になれた
何処へ連れて行ってくれるのか分からなかったが、門倉のお気に入りの場所ということは分かる。
それだけで嬉しい気持ちと楽しみだという想いが膨らんで、胸が高鳴ったのを綾人は感じた。
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