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第186話
「クソ暑いっ!!」
長ランの詰襟を取って九流が台から降りるなりボヤいた。門倉も全くだと詰襟を解きながら詰めていた息を吐く。
「この格好で組手させられるんだろ?この馬鹿な伝統行事もそろそろ廃止にしねぇか?」
「大いに賛成だね。つーか、生徒会ばっかりリスク高過ぎだろう」
午後の部でヤル気がダラける頃合いを見計らい、生徒会メンバーがこの長ランを着て空手など武道の型を取ってはハクを付けるのがこの学園の習わしとなっていた。
確かに会場は大いに盛り上がるのだが、暑いの怠いのなんのと、生徒会メンバーは皆、逆にヤル気を削がれていた。
そんな二人は、はぁーっと重い溜息を吐くと、揃って来年は生徒会役員を絶対に辞退すると心に誓い合った。
第一種目である競技が始まり、体育祭は滞りなく進行していく。
次はざくろと綾人の出る一年生のクラス対抗リレーで門倉と九流も生徒会の仕事を中断して競技へ目を向けた。
「あいつ、鈍臭いとこあるからな・・・。転ばなければいいんだけど」
九流が過保護のようにざくろの心配をし始めた。
一方、門倉は綾人の足の速さを信頼していた。幾度となく貞操の危機を逃れるために自然と身についたスキルなのだろう。
以前、綾人を捕まえるという鬼ごっこをしたがなかなかのスピードに驚かされたのを思い出す。
リレー開始の合図でコースに並ぶ選手を見ると、トップバッターは綾人だった。
群を抜いての速さに周りが圧倒される。
かなりのリードを付けて他クラスを引き離し、断トツで次の競走者へとバトンを繋げた。
天使は羽根が生えてるから走るのも速いのだと、周りは訳のわからない御託を並べては綾人の姿を可愛いと満喫した。
断トツ1位にてバトンを渡した綾人の甲斐なく途中、クラスメイトが横転して一位から三位まで順位は落ちた。
ラストのアンカーを飾るのはまさかのざくろで三位からどれだけ追い上げられるかと周りの熱視線に体を強張らせていた。
ざくろへバトンが渡り、地面を蹴って走り出す。
風を切ってグングン前へと走り抜けるざくろに周りは美しいと魅入った。歓声が沸き起こり、三位から二位へと追いつけたが、ゴール前で競り合いとなって倒れ込むように線を切った。
結果、ざくろは二位でゴールを決めた。久々の全速疾走に苦しいと息を切らせて地面へと座り込む。
「ざくろ、足速いね!お疲れ様!」
満面の笑顔で綾人が凄い、凄いと拍手してくれた。
「綾の方が絶対速いよ!アンカーでも良かったんじゃないの?」
苦しそうに胸元を押さえながらざくろが言うと、綾人はアンカーは重荷だと笑って、次に出る種目の話をした。
「障害物競走って午後からだよね?昼ご飯はざくろは家族と食べるの?」
「うん。午後の生徒会の組手後だよ。今日は妹は来てないんだけど、九流先輩のご家族が来てるから挨拶がてら昼は顔出す予定」
「そっか!」
なら、やっぱり昼食は一人だなと綾人は笑って頷いた。
昼の部の競技が終わり、得点表へ紅組・白組の点数が張り出される。
紅組、185点
白組、165点
午前の部は門倉達の紅組が少しリードした形となり幕を閉じた。
「午後から巻き返そうね!」
意気込む綾人にざくろは優しく頷くと、昼食の休憩を挟むと放送が流れた。
生徒達はわらわらと家族の元へと散らばっていく。
綾人は変に浮くのも嫌なことから売店で買ったおにぎりを持って、人気の少ない中庭へと走った。
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