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第187話

「午後の障害物競走、頑張って白組に加点なるようにしよう」 中庭のベンチに腰掛け、おにぎりを頬張りながら綾人は意気込んだ。門倉に絶対何か買ってもらうんだと、奮起する。 買ったおにぎりを一つ食べるともう一つあるおにぎりの封を切るか悩んだ。 「あんまり食欲湧かないな・・・」 緑の木々に包まれた青空を見上げ、綾人はおにぎりをベンチの上へと置いた。 家族がいない綾人はこういった体育祭などが苦手だ。自分が一人なのを痛感させられる。 早く昼休みが終わればいいのにと、風に揺れる葉っぱを見つめてダラダラ過ごしていたとき、お気楽な飄々とした声が自分の名を呼んだ。 「綾ちゃん、みーつけた!」 声のした方へ顔を向けると綾人は目を瞬く。 そこにはお弁当片手に門倉が中庭へと入ってきた。 「門倉先輩!どうしたの!?」 「綾ちゃんとお昼食べようと思って!探したよ〜」 「家族と食べないの?」 家族がいるなら一緒に過ごすべきだと顔を顰める綾人に門倉が笑った。 「この歳で体育祭に家族と食べるなんて、男子たるもの相当な理由がないとしないでしょ!そんなことより、一緒にお弁当食べよう」 風呂敷に包まれた三段重ねの重箱を広げる門倉は綾人の好きなハンバーグやらエビフライを取り分けてやる。 「・・・いただきます」 全く食べる気が起きなかったのに、門倉とお弁当を目の前にした綾人は食欲が湧いてきて驚いた。 エビフライを頬張ると美味しくて笑顔になる。 「美味しいです!」 「良かった。これも美味しいよ!」 蟹クリームコロッケを綾人の皿へ入れて門倉も同じものを食べる。 そして、先ほどのクラス対抗リレーで足の速さを褒められた。 少し恥ずかしかったけど、どこか嬉しくて楽しさに笑顔が続く。 柔らかく、優しい笑顔を向けてくる門倉に胸が詰まって空を見上げる。 先ほどの緑の木々はやっぱり風に揺らいで覗く青空が見えるのだが、先ほどと少し違うのはそれらの景色がキラキラ輝いていることだった。 同じ景色な筈なのに、見える世界は輝いて綾人は胸を膨らませた。 再び視線を戻すと寂しさも悲しさも消え去る自分の心に門倉への感謝を感じた。 「あの・・・、ありがとうございます」 ポツリとお礼を告げると門倉はよしよしと頭を撫でてきて、茶化すように勝負の話をしてきた。 「そういえば、綾ちゃん!白組負けてるけど賭け大丈夫?負けたら俺の言うことなんでも一個聞いてよ?」 「もちろん!っていうか、負ける気ないですから!僕、次の障害物競走で加点しますし!」 胸を張って、エッヘンと威張る綾人に門倉は目を見開いて固まった。 「・・・・え。障害物競走?」 「はい。どうかしました?」 「綾!障害物競走に出るの!?」 「はい」 不穏な反応を見せる門倉に綾人が目を丸くして頷いた。そんな天使に門倉は頭を抱えてボヤく。 「マジかぁ〜・・・。着替え用意しなきゃな・・・。つーか、なんでソレに出るかな!」 苛立ったように舌打ちされ、何が何だか分からなくなった綾人は友人のことも口にした。 「ざくろも出ますよ?なんか、クラスの皆んなに出てくれって拝まれたんです」 「そりゃ、拝まれるだろうな・・・」 あんな最低最悪な競技・・・ クソッと悪態吐くと門倉は今日一番の重い溜息を吐いた。

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