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第189話
満面の笑顔と軽快な言葉で告げると、新藤はボイスレコーダーのスイッチを入れてマイクへと当てた。
少し、ザーッと砂嵐のような音がしたのち九流の声が聞こえてくる。
『俺にはお前だけだ。愛してる』
やたらとキザったらしくも熱のこもった自分の声に九流は目を見開いて固まる。
『他の女よりお前が一番だ・・・。一番大切なものはお前だよ』
この台詞は確か、夕涼み会でのダンスホールにて最近ざくろへ向けて放った愛の言葉で、九流はブワッと、顔面を赤く染めた。
『未来永劫、俺はお前だけを愛する』
女装したざくろへ人生初めてのプロポーズを決めては誓いを立てたのだがまさか、こんなボイスレコーダーなどに撮られていたとは知らずに驚愕した。
己が、口にしたにも関わらずあまりのクサさに悶絶しては顔を両手で覆って九流はその場に蹲った。
「くっ、くっ、くっ!ダッセェ!キザったらしい西條への告白撮られてやんのっ!!つーか、未来永劫って、どんだけキザなんだよ!!猛のセンス疑うわっ!!」
腹を抱えては蹲まる幼馴染みを指差し、大笑いしては手を叩いて喜ぶ門倉に理事長はボイスレコーダーを直すと、今度は一枚の紙を取り出した。
「笑ってるけど、門倉会長。君も相当な熱い心の持ち主なことを私は知っているよ」
輝かんばかりの笑顔でその紙を広げ、新藤はマイクを握りしめて、ある手紙を読み始めた。
『・・・白木 綾人様。二年間の契約の元、気持ちをちゃんと伝えられなくて悪かったと反省しています。二年という月日を取り払ってもあなたの側にいたい・・・。毎日会いたいし』
淡々と読み上げていく新藤に今度は門倉が目を見開いて顔面蒼白に陥った。
これはいつぞや、幼馴染みの九流にてアドバイスをもらい綾人を想って綴ったラブレターで、門倉は頭を抱えて絶叫した。
「う、うわぁーーー!わぁーーーー!!わぁぁあーーーーーっ!!!」
ダダダダッと、理事長の元へ駆け寄り壇上へ上がってその紙を奪おうとするも、新藤は軽く身を躱しては続きを読み上げていく。
『毎日声を聞きたい。あなたのこと、何も知らない自分が嫌でたまりません。ゆっくりでいいから・・・』
「や、やめっ!待て!!待て!!待てぇーーー!!!どうしてそれがっ!!!」
大絶叫の制止の声を上げ、門倉は真っ赤な顔でギャアギャア騒いでは理事長に掴みかかった。
あの生徒会長、門倉 優一とは思えないほどの慌てっぷりに会場中は息を呑んで、そのみっともなさに目を見張る。
それとは反比例した新藤は素知らぬ顔で文面をツラツラと読み進めていった。
『綾のペースに合わせるから俺に少しでも気持ちを寄せる可能性があるのならば、このままあなたを愛したいです。門倉 優一』
きっちりと最後まで読み終わると新藤は紙を快く門倉へと返した。
その紙をわなわな震えながら奪い取るとあの日、生徒会室のゴミ箱にて捨てたはずのラブレターに目の前が真っ暗になる。
「門倉くん、ツメが甘いよ。弱みはキチンと処分しないと」
ふふんっと、鼻で笑って新藤が門倉に耳打ちすると羞恥に半泣きになりながら門倉は手紙を丸めてその場にしゃがみ込んだ。
撃沈する二人へ無事に洗礼を与えると、新藤はマイクを握り直して柔らかな笑顔で語り出す。
「こんなお茶目な会長もクールな副会長も恋人の前ではとても可愛い年相応の高校生なんですね〜。いやはや、若いとはいいものですね」
保護者へ向けた一言なのか、ゲスト席からは全くだと笑い声が上がった。
「他の生徒達もこれからの学園生活、大いに青春を謳歌してください」
今度は生徒へ向けて一言、声をかけると理事長は壇上を降りていった。
大ダメージを受けた門倉と九流は自力では動けないほどのショックを受けた為、それを不憫に思った生徒会役員達が二人を抱えて生徒会用のテントへと撤収した。
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