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第195話

「綾?宿題、そんなに難しいの?」 するりと首筋に指先を這わし、隣に腰掛けてきた門倉が優しい顔で顔を覗き込んできた。 「え・・・、えっ!?あ、いや・・・・」 あの三枚の写真があまりに怖すぎて綾人は動揺する気持ちを抑える為に心療内科の主治医である速水から処方されている薬を飲んだ。 精神安定剤なのだが、いつもより多めに薬を摂取したからか少しぼんやりしてしまい、上の空になっていたようだ。 一人で宿題するのが不安で、薬を飲んでから直ぐに荷物を持って門倉の部屋へ来たのだが、薬の効能が強過ぎてたまに意識が飛んでしまう。 最近は薬自体を飲んでなかった為に免疫が下がっていたのかもしれない。 多めに飲んだことを後悔しながら綾人は宿題を続けることを断念してカバンの中へとプリントをしまった。 「宿題、いいの?」 「はい。なんだか、ヤル気が起きなくて・・・」 ぼんやりした目で答えると、いつもと様子が違う綾人に門倉はもちろん気がつく。 「綾ちゃん、薬飲んだでしょ?」 少しキツめの口調で責めるように門倉が聞くと、綾人はバツが悪そうに顔を俯かせて謝った。 「ごめんなさい・・・」 素直に謝罪してくる殊勝な態度に溜息を吐くと、門倉はの綾人を肩へと担いでベッドに放り投げた。 「っ!」 乱暴に扱われて体を強張らせる綾人の上へ門倉は覆い被さるように体を抱き締めて一緒に横たわった。 「何があったの?薬飲む前にこれからは不安な事があれば俺に言えって言ったよね?」 言葉は厳しいものだが、声と態度はすこぶる優しくてどこか安心する思いで綾人は門倉に身を寄せた。 胸に顔を埋めると、門倉の規則正しい心音が聞こえて更に安心感を得る。 門倉の広い背に腕を回して抱き着くと、そっと瞳を閉じて深呼吸をした。 「昨日の疲れが取れてないのかな?少し寝る?」 あまり責めるのも良くないかと思い直した門倉は蜂蜜色の髪へキスを落とす。そして、小さく頷く綾人に吐息で微笑むと、トントンっと優しく、か細い背中を規則正しいリズムで叩いてやった。 それがまたとても落ち着く動作で綾人はストンっと、眠りへと落ちた。

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