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第202話
外食しても良かったのだが、少しまだ体が辛そうな綾人に合わせて門倉は昼食は寮で食べていくことにした。
「これ食べたら出かけられそう?」
パスタが美味しいとご機嫌に食べる綾人に聞くと、軽快な返事が返ってきた。
「うん!」
「欲しいもの決まってるの?」
「うん!ゲーム!!」
「ゲーム?」
まさかの希望商品に門倉は目を丸くした。
「クラスメイト達が小型ゲーム機を良く貸してくれるんだ。あんまり興味なかったんだけど、双六ゲームがしたくて!」
欲しい、欲しいと強請る綾人に門倉は分かった、分かったと頷いた。
もっとブランドものの財布やら鞄や靴などを欲しがると思っていたので拍子抜けした。
「財布や鞄は要らないの?」
「へ?要らないよ。あ!でも、筆箱買わなきゃ!無くなったんだ!!」
キョトンとした顔で返されたあと、手を叩いてまさかの筆箱と発言された門倉は爆笑した。
発想が幼いのか、はたまた無欲なのか綾人らしくて可愛く思う。
「最近、身の回りのもの無くなるんだよね」
もぐもぐパスタを頬張りながらボヤく綾人に門倉が苦笑する。
自分が一年の時もそうしてよく身の回りのものが無くなった事を思い出した。
イジメとかではなく、単純な憧れ行為から自分の所有物を欲する輩に盗まれていたようだ。
恐らく、綾人もそうなのだろう。
「それじゃ、筆箱も買ってあげるよ」
クスクス笑って、欲しいものは全て購入してあげると宣言する門倉に綾人は恐縮し始める。
「それはダメ・・・」
「どうして?」
「買ってもらう理由ないもん」
変に律儀な綾人は甘え上手なのか甘え下手なのかたまに分からない。
人に負担を掛けたくない意識が強いのだろう。
「俺の恋人ってだけで十分な理由だよ」
そう笑って、門倉は食事を終えると席を立った。綾人もデザートのイチゴを急いで頬張ると慌てて席を立つ。
「ほら、外出時間少なくなる。もう行こう?」
手を差し出され、優しく微笑まれるとただそれだけで体温が上昇するのを感じた。
顔が火照って熱い。
でも、嬉しい気持ちの方が大きくて綾人は差し出された手にそっと自分の手を重ねた。
「お目当てのものが買えて良かったね」
水色の小型ゲーム機をゲットしたと綾人はご機嫌だった。揃って数本ソフトも買ってやると早く寮へ帰って遊びたいと笑った。
イチゴのソフトクリームを食べながら今度は筆箱を求めにポツポツ歩く二人は今日は喧嘩する事なく一日を過ごしていた。
「晩御飯も外で食べていく?」
「駄目!早く寮へ帰ってゲームしたいもん!皆んなと遊ぶ〜」
皆んなというフレーズに門倉の笑顔が強張る。
「・・・皆んなって?西條?」
「ざくろはゲームしないよ。クラスメイト!談話室でいっつも集まってるから行けば仲間に入れてくれる」
えへへと嬉しそうに笑う綾人にムクムクとジェラシーが沸き起こっていった。
だが、悲しきことに無邪気に喜ぶ天使はそれに気が付いてないようで・・・
「綾ちゃん、今日も俺の部屋にお泊りしてよ」
「えぇー!どうして?」
「別にいいじゃん。昨日は殆ど寝て過ごしたんだし!」
そう言われたら強く言えなくて綾人は口籠る。
「綾が嫌ならエッチなことは我慢するから」
ね?っと、耳元で囁かれて綾人は顔を赤くして小さく頷いた。
それが可愛いのと、泊まることを了承した綾人が愛しいくて手を繋ぐ。
ドキドキして心臓が痛い。苦しいのと嬉しいのが入り混じって歯がゆい感覚に門倉の手を握り返すと、優しい声が降ってきた。
「困ったことがあるなら教えてね・・・。待ってる」
恐らく、昨夜の薬を飲んだ一件を言っているのだろうと頭に過ぎった。
優しい心遣いがまた嬉しくて胸のうちを占めた。
迷惑をかけたくない
変な心配もさせたくない
自分で善処してみせると、綾人は強い気持ちに包まれて、門倉の隣を笑顔で歩いた。
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