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第205話

「綾人君、大丈夫だよ。門倉君はただの脳震盪だから」 救急車で運ばれた門倉は病院の特別室へ入った。身内以外、面会謝絶で綾人は保護者的役割である速水へ連絡が入ったらしく、共に病室の前のベンチに頭を抱えて座っていた。 どうやって病院へ来たのか、記憶はない。 ただ、医師の診察を拒んで少しでも門倉の近くにいたいと騒いだ。 それを食い止めるように速水が来て、宥められるまま検査を受けさせられた。そして、綾人は今の状態に至った。 自分のせいだと自身を追い込む綾人の精神状態は危うい。速水は何度も大丈夫だと声をかけたが、その声は綾人には届いていなかった。 涙を流してカタカタと体を震わせる綾人の心は限界そうで、速水もその姿を苦しそうにか細い肩を抱いた。 「せんせぇ・・・、心が・・・痛くてこわれちゃぅ・・・・」 顔を覆って、小さく身を丸めながら震える綾人を速水は優しく抱きしめた。 「大丈夫だよ。僕の前では我慢しなくていい」 「・・・でも」 「しなくていいんだよ!僕は君のこと全てを知ってる。言いたくないことも言えないことも。気に負わなくていいんだ。僕の前では我慢はおやめ」 「・・・っ、うぅ〜・・ぅえぇ〜んっっ、せんせ・・・ぇ・・」 もう耐えられないと速水へ抱きついて大声で綾人は泣き叫んだ。 「僕のせいだ・・・。外出するんじゃなかった!先輩にちゃんと相談すれば良かったっ・・。お母さんが・・お父さんがっ・・・、先輩まで・・・・」 苦しい、苦しい、苦しい 息ができない お願い、助けて・・・・ 死なないで・・・ 消えないで・・・ 一人にしないで・・・ 「あいつが・・・、加賀美がっ・・」 綾人が放ったその名に速水の顔色が変わった。 混乱しては自我を保てていない綾人に話が聞けなかった。だが、この綾人の指す人物と過去のトラウトが発生していることから最悪の事態が予想された。 胸が痛くて苦しいと綾人は訴えてきた。 門倉のことだけでなく、トラウマである両親の死にまで意識を向ける綾人はパニックに陥っている。 「先生・・・。僕、消えちゃうの?」 「・・・・」 自身の中に感じる不安を綾人は訴えた。 黙る速水に綾人は門倉のいる部屋を見て声を荒げる。 「そんなの嫌だ!先輩のこと忘れたくないっ!・・・この好きって気持ちだけでも覚えてたいぃ・・」 速水の胸にしがみついて願うように叫ぶ中、優しく背中をさすって速水は宥めた。 「大丈夫・・・、消えないよ。君は消えない」 速水の瞳を見上げると、いつも優しく頼りになる力強い瞳が弱々しいもので綾人はやっぱり駄目なんだと悟ってしまった。 「・・・・先輩に会いたい。消える前に好きって言いたい・・・。こんなことになるなら・・・」 言えば良かった・・・ 何度も何度も繰り返し、貴方が好きだと叫べば良かった。 溢れる涙が止まらなくて視界がぼやける中、速水を見た。 その姿に門倉の面影を乗せる。 だけど、ピシピシと音を立てて砕けていく自分の心の音と同時に門倉の顔が思い出せなかった。 崩れ消えていく記憶に涙が流れる・・・ 柔らかく優しく微笑むあの笑顔が好きだった 意地悪だけど、好きっていつもいって抱きしめてくれた人・・・ 強くてどこか儚い人だから心配だったけど、あの人を支える人間は僕と違って沢山いる・・・ いつも守ってくれるそんな優しい強いあなたを尊敬してました 好き・・・ 大好き・・・・ 側にいたかった 例え嫌われても 捨てられても 先輩の幸せ見届けたかったな・・・・ 心が砕けて壊れる瞬間、綾人の瞳が光を失い同時に意識を奪った。 ダラリと四肢から力が抜けて、崩れ落ちる体を速水がキツく抱き留める。 「リセットされたか・・・」 可哀想にと綾人の頭を撫でつけて囁くと、速水は哀れな子供をキツく抱きしめた。

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