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第207話

門倉は病院へ着くなり、直ぐに意識を取り戻していた。そして、検査中、綾人の容態を何度か問いた。看護婦は身体的影響はなく、保護者である速水医師が駆けつけたので気にするなと告げてきて、己の怪我の処置と検査を急がせた。 少し落ち着いてから綾人の病室へ伺おうと思っていたのだが、事態は自分が想像もしていなかった事態に進んでおり混乱した。 「待ってください・・・、綾のトラウマ?事件ってなんですか?」 綾人のトラウマはあの親戚達ではなかったのかと、紅茶色の瞳を睨みつけるように速水へ向けた。 「・・・やっぱり、このことは聞かされてなかったんだね」 呟くように言われ、自分の知らない事実をほのめかされ、悔しそうに門倉に視線を落とした。 「君にはとても懐いていたし、教えてあげたいんだけど、個人情報だしな・・・」 悪いねと速水が口を閉ざそうとしたとき、門倉が頭を下げた。 「他言はしません!お願いします!!白木綾人のこと知ってること全て教えて下さい」 速水は困ったなと部屋にいる人間を一巡した。 すると、幸雄は咲也と共に部屋の外へ出て、ナースへ人払いを言いつけた。 初めて見る九流とざくろを前に速水はこの二人が信用できるのか門倉へ目配りする。 「猛は俺の親友です。西條は綾の親友だ。二人が口は堅い事を俺の名において信用して欲しい」 門倉の真摯な瞳に速水はそれならと、ソファへ腰掛けた。門倉もベッドから出て、向かい側へ腰掛けると、九流もざくろもテーブルを囲うように席に着く。 「本当に秘密は守って下さいね」 本当は患者のことを話すのは良くないとわかっているが、どうやらこの三人は綾人が深い付き合いをしてきたようで、今後の綾人との関係性に注意を払って欲しいこともあり速水は話すことを決めた。 速水は一度大きく深呼吸すると、順を追うように綾人の生い立ちを話し始めた。 両親に愛されて育ったこと。 華やかな容姿が原因で虐めにあっていたこと。 ストーカーに狙われたこと。 そのストーカーに両親を殺され、精神が壊れて人格が崩壊したこと。 親戚から性的虐待を受け、この時、二度目の精神と人格破綻が行われたこと。 そして、門倉達が知る綾人が構築されて、たった今、三度目になるその人格が再び壊れてしまったこと。 「・・・・・壊れたって、綾はどうなってるんですか!?」 青い顔でざくろが聞くと、速水は腕を組んで困ったように答えた。 「多分、またあの子が出てきてるんじゃないかな?」 「あの子?」 「綾人君の純真無垢で素直な本性だけをより集めたような子でね。次の人格が決まるまで、前もその前もその子が番人してたよ」 「番人?」 「うん。裏表のない非常に素直な子だけど、手厳しくてね。もう、綾人君に関わり合いを持たないなら一切触れない方がいい。綾人君の人格が出来るのにも支障をきたすから僕としても迷惑だし」 今後の綾人の付き合い方を催促してくる速水に門倉が質問した。 「人格が出来上がるって、今までの綾人はどうなるんですか!?」 「消えたよ。綾人君が目を覚ましてないからまだ僕も会えてないけど、年齢がどこまで成長してるかで決まる。高校生まで育っているなら君達のことも覚えているだろうけど、小学生でまだ止まってるなら記憶も小学生までだ。現に一度目は小学一年生で時を止めていた。二度目は小学五年生」 「記憶喪失ってことか?」 「違う。人格崩壊だ。今までの綾人君は消えたんだ。よく似た人格を作るのは可能かもしれないけど、あの人格を再築するのは諦めた方がいい。綾人君にも負担がかかるから。そのこともあって、君達にこの話をしてるんだ。あの子にこれ以上、余計な負荷を掛けない」 真っ直ぐ3人を見据えて速水が忠告すると、門倉は頭を押さえていまいち呑み込めないと表情を曇らせた。

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