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第209話

門倉の真摯な瞳と言葉に速水は視線を伏せた。 正直なところ、門倉家跡取りのこの男を速水個人として、信用できない訳ではない。 だが、懐いていた様子の綾人がある意味最後まで自身を晒け出さなかった相手だ。 それはきっと、門倉とのタイムリミットである卒業がキーワードなのだろうと伺えた。 自分の重荷を背負わす相手ではないと判断してのことだと思えた。 また、速水もそんな考えに同調する。 たかが2年で何ができる? 本気で好きなら尚のこと、別れる時に綾人へかかる心の負荷を考えると苛立ちが込み上がった。 込み上がるのだが・・・ この男が、どのようにしてあの哀れな子供を救うのか見てみたいとも思えた。 そんな博打的な考えに医師としての自分に辟易した。 自身との葛藤の末、嘘偽りの無さそうな門倉の瞳の強さにあてられる。 「・・・・・条件がある」 小さな声でポツリと呟くと、門倉は静かに首を縦に振った。 「寮では同じ部屋に住む事。ストレスを感じていそうなら一人になれる場所を確保してあげる事。本能のままに物事を進めてるから間違った行いをしていたら、叱ってあげて。あと・・・」 そこまで言うと、速水はこれはお願いだと力無く笑った。 「あの子の我儘は聞いてあげてほしい」 速水なりの医師を超えた優しさを感じ、門倉は胸が温かくなった。 綾人が懐くわけだと頷く。 門倉の意思確認が取れた事によって、速水は席を立つ。つられて門倉、九流、ざくろも立ち上がると皆で綾人の病室へと向かった。

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