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第211話

「あ!綾人君、起きてた?おはよう」 扉を開くと、そこにはベッドへ腰掛ける綾人が自分の手帳を捲っていた。 顔を向けて速水を視界に入れるや、綾人は嫌そうに顔を歪める。 「げっ。偽善者医師・・・」 「偽善者って酷いな〜」 あははと笑いながら速水が部屋の中へ入っていくと、綾人はふんっと鼻を鳴らして顔を背けた。 しかし、どうやら速水の後ろに続いて部屋の中へ入ってくる門倉達が気になるのか、視線を向けてくる。 「・・・そいつら誰?ってか、写真の奴?」 さっき捨てた写真の人物である門倉を見て綾人は首を門倉を指差す。 「写真?」 門倉が優しい笑顔付きで聞き返すと、綾人がゴミ箱を顎で指して告げた。 「手帳にあんたの写真挟まってた。なに?俺の友達か何か?」 「・・・・・」 その質問に何て答えるべきか分からず、門倉が黙るとざくろがその写真をゴミ箱から拾った。 丸められた写真を広げてシワを伸ばすと、そこには優しく笑う門倉と嬉しそうな笑顔の綾人がが映っていて一同、目を見張った。 「男の写真持ち歩くとか、相当懐いてたみたいだけど気持ち悪いよな。っで?どんな関係だったわけ?」 「・・・・付き合ってた」 真っ直ぐ見つめて言うと、綾人が固まる。 少しの間、考えたあと主治医へ視線を向けると速水は肯定するように頷いた。 「は?男だよな?」 門倉を凝視する綾人に速水がまた頷く。 「・・・こんなにかっこいいのに変態なわけ?」 「それは知らないけど、綾人君がメロメロだったよ」 「俺が!?」 「うん。綾人君が」 「嘘だ!」 「本当だよ。好き好き言ってた」 偽善者と言われたのを根に持ってか嫌な言い方をする速水に綾人が大声で否定した。 「嘘だ!絶対嘘っ!!だって、記憶じゃ男嫌いだぞ!?だいたい、男相手なんて変態じゃん!あの親戚連中と一緒じゃんかっ!!」 それは嫌だと叫ぶ綾人に速水が頭を撫でて宥める。 「それだけ君が成長したってことでしょ?っで?今何歳?優一君覚えてないなら高校生ではないよね?」 「高校?今、俺、高校生なの?」 「身体的年齢はね」 頭を撫でるなと、速水の手を払いのけて綾人が聞くと、手を引っ込める速水は別段気を悪くすることもなく和かに答えた。 その笑顔にただされるように綾人も静かに口を開く。 「・・・中二ぐらいかな?中学校に入学した記憶がある。後輩できて鬱陶しい記憶もあるし」 綾人の言葉に丁寧に頷きながら聞くと、速水は胸ポケットからメモ帳を取り出して記載していった。 「好きな食べ物は?」 「知らない」 「好きな色とかも?」 「・・・・多分、緑?」 天井を見上げて自信なさ気に答えたとき、門倉が代わりに答える。 「水色だ」 門倉のその言葉に綾人が速水を見た。 「うん。前の綾人君が好きだった色だよ」 にこりと笑って教えると、綾人は嫌そうに息を吐いた。 「本当に付き合ってたんだ。気持ち悪っ!」 嫌だ、嫌だと首を振る綾人に速水が付け加えた。 「そんなこと言ってるけど、君の現在進行形で彼氏だよ」 満面の笑顔で告げてきた速水に綾人が目を丸くした。 「こいつが?俺の!?嘘だろ‼︎?」 大声をあげて自分を見てくる綾人に門倉は少し悲しそうに微笑みながら答えた。 「恋人同士だよ」

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