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第212話

今の綾人は、門倉を筆頭にざくろのことも九流のことも初対面でしかなかった。 その為、速水が簡単な自己紹介と関係性を説明した。 門倉は綾人の一つ上の学年で恋人なこと。 九流は門倉の幼馴染で親友であること。 ざくろは九流の恋人で綾人にとって親友だということ。 まだまだ伝えたいことはたくさんあったが、一気に詰め込むのもどうかと思って口を閉ざし、休憩を挟む。 お茶を飲んで、少し和やかな空気を感じたら今度は綾人の今の状態を把握する為に速水は問診していた。 それを黙って見ていたざくろが速水へ問いかける。 「すみません・・・、今の綾人はリセットされて新たに作られた人格ではないんですよね?」 二人のやりとりにざくろは速水と綾人が昔からの知り合いのような砕けた感をかんじて仕方がなかった。 「俺、まだ人格決まってないよ」 その質問には綾人が答えた。そして、ざくろをじっと見つめた後、距離を縮めて惚けるように話し掛けてくる。 「ざくろって言ったっけ?あんた、すっごい綺麗・・・。なんだろ?凄い瞳が魅力的で吸い込まれそう」 蜂蜜色の瞳を輝かせる綾人にざくろがゴクリと喉を鳴らして強張った。 「ねぇ、そっちの男と付き合ってるって言ってたけど、楽しい?ホモなわけ?」 残念だと目を半分閉じて聞いてくる綾人にしどろもどろざくろは答える。 「女の子と付き合ったことないから分からないけど、九流先輩といて楽しいし、幸せだよ」 「・・・・ふ〜ん」 気の無い声を出して綾人は九流を見る。 「俺もざくろといて楽しいし、幸せだけど」 真顔で答える九流に綾人は段々とどうでも良さそうに背筋を伸ばすストレッチをしはじめた。 「それは、両想いでなによりだね。おめでとー」 眠たいと欠伸をしては速水を見て部屋を出て行けと目で合図をする。 自由気ままというか、不躾かつ遠慮のない綾人の態度に一同唖然とした。 口調も荒く、自分のことも「俺」と言う綾人は以前のような柔らかな雰囲気はなく、代わりに殺伐とした取っ付きにくい印象が強い。 誰にも媚びず、誰も近付けない。 己を守ることを最優先する本能を感じた。 「西條君のさっきの質問だけど、この子は綾人君の奥深くにある沢山ある中の人格の一つで不安定な存在なんだ。時間が経って、綾人君が何かをキッカケにやり直したいと思った時、新たな人格が構築されていく。それまでの仮の姿みたいなものだよ」 「仮の姿?キッカケって例えば?」 門倉が聞くとそれに綾人が答えた。 「俺も良く分からないけど、自分の中で何かを感じた時、徐々に消えていくんだ。前は中学に入るのをキッカケに変わろうって思ったのか、その時に消えた」 「・・・キッカケか」 腕を組んで考え込む門倉に綾人はベッドの中へと戻った。 「ねぇ、そろそろいい?俺、眠いんだけど。帰ってもらえる?」 嫌そうに告げると速水が笑顔で頷く。 「確かに疲れたよね。ごめんね。僕達は帰るから今日はゆっくり休んで。明日また来るよ」 「はーい。ばいばーい」 ころんっとベッドに横になり、布団を被ると綾人はひらひら手を振った。 門倉達はまだこの場に居たそうだったが、速水がそれは止めてくれと首を横へ振って阻止する。 速水の促しによって室内から全員出され、部屋の外に出たピリピリする門倉に九流が落ち着けと、背中を叩いた。 心が乱れて頭が混乱した 綾人のはずが綾人ではないように思えて怖かった 速水が言っていたように全くの人格に正直、臆する自分がいた。 だけど・・・ このまま手を離したくない もう一度、綾と向き合いたい・・・ 大きく息を吸い込んで、決意を固める門倉はその想いに綾人を守ると誓いをたてた。

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