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第213話

「男子寮〜!?はぁーーー?ふざけんな、バーカ!!」 次の日、速水は綾人に今の自分の詳細を事細かく告げた。 全寮制の男子校、立春高校一年生で今後、クラスメイトで親友だった西條ざくろが昼間はフォローを入れてくれ、寮へは寮長兼生徒会長である恋人の門倉が手助けしてくれるということを。 体自体は何の外傷もなく、まだ伝えてはいないが綾人が消える瞬間、あのストーカーである加賀美の存在をほのめかしていた為、今は規則は厳しいが、完全なセキュリティーで守られている立春高校へ入る方が綾人にとって安全と速水は踏んだ。 嫌がる綾人を必死に説得し、ストレスを感じたら直ぐに電話するようにと携帯電話を握らせる。 「もう既にストレス感じてる。学校なんて辞めたい。しかも、男子校なんて絶対キモくて吐く」 眉を寄せて不機嫌な綾人が速水へ上目遣いで強請った。 まだまだ幼い綾人にやはり、人格が決まるまで側に置いておくべきかと悩んでいたとき、病室の扉が開いて門倉が姿を見せた。 「綾、寮へ戻ろう」 爽やかな笑顔で迎えに来た王子様に綾人はげんなりした顔で門倉を睨みつける。 「俺、速水のとこにいる。男が男と付き合う学校なんて気持ち悪過ぎて無理」 辛辣な言葉を吐き捨てる綾人に速水が参ったなと、額を抑えた。 「そんなこと言って、ビビってんの?もう中2なんだろ?前の綾は小5だったんだ。それでも立派に寮生活をしてた。ちょっと根性なさ過ぎなんじゃない?」 呆れたと腕を組んでハッパを掛けると、綾人はムッと顔を顰めて挑発に乗ってきた。 「はぁ!?ビビってなんかねーし!バーカ!バーカ!!」 行けばいいんだろと、ベッドの上から飛び降りて鞄を持つ綾人に門倉はちょろいな〜と苦笑した。 「何かあったら、直ぐに俺に言うんだよ。絶対守るから」 病室を出るとき、優しい声色で告げると綾人はあっかんべーと舌を出して毒を吐き捨てた。 「自分のことは自分で守れるっつーの!この変態っ!!」 寮へ着き、部屋へ案内する間、門倉が何か言葉を発する度に綾人は反抗的な言動を取った。 「ここが俺と綾の部屋ね」 「お前と同じ部屋なんて絶対やだ!つーか、彼氏面すんな!別れろ、変態!!」 「・・・・」 思春期真っ盛りの反抗期の時期だ。仕方がない。 仕方がないのだが・・・・ 「綾ちゃん・・・。ちょっとお口にはそろそろ気を付けようか?」 苛立ちを隠せず、引き攣る笑顔で圧をかけると、綾人は身を翻して部屋を出て行こうとした。 「俺と一緒にいたくないならいなくていい。別にお前に気に入られようとも思わないし」 さよならと手を振る綾人の肩を掴むと門倉は顔から表情を消した。 綺麗な顔が無表情になり、ただそれだけでなんとなく恐怖が込み上がって体が竦む。 「別に気に入られようと振舞わなくていい。だけど、ルールは守って。俺と共同生活すること。困ったり嫌なことが起これば必ずその都度、俺へ報告はしろ。分かったな?」 掴んだ肩にグッと力を込めると、綾人は門倉に気圧されて頷いていた。 頷く姿を確認した門倉は瞬時にまたあの柔らかく優しい笑顔を浮かべた。 「いい子だね。綾の好きなカルピスあるよ。飲む?」 わしゃわしゃっと頭を撫でてソファに座るようただすと、門倉は冷蔵庫へ向かった。 ポテポテとソファの所まで歩いていくと、躊躇いがちに呟く。 「もう、カルピスはそんなに好きくない・・・」 その言葉に門倉は手を止める。 「リサーチ不足だったね。ごめん。今は何が好きなの?」 教えて欲しいと聞かれ、綾人は目を輝かせて元気に答えた。 「イチゴオレ!」

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