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第214話

相変わらず、イチゴの類は大好きな綾人の為に門倉は大量のお菓子や果物を買いに行った。 無邪気に喜び、それらを食べる姿はどことなく前の綾人を思わせて嬉しかった。 「お風呂入りたーい!」 食べることに飽きたらしく、ソファから立ち上がると脱衣所目掛けて走っていく。 好きにさせようと放置していたら、少ししてキャッキャッ笑う声が聞こえてきて門倉は何事だと風呂場を覗いた。 「・・・・・何やってんの?」 湯船に浸かって、泡風呂を満喫しながらシャボン玉を作っていた綾人に呆れた声が出る。 「シャボン玉〜!見てよ!すんごいデカイのできたぁ〜」 はしゃぐ綾人に門倉は今の綾人の方がある意味幼いなと苦笑しながら部屋へと戻った。 いや、ある意味前の綾人もこんな風に遊びたかったのかもしれない。 幼稚な手品を見せた時があったが、目を輝かせて何度もしてくれとせびられた事を思い出した。 必死に高校生を演じる為にそれらの行動を抑えていたのであろう。 そう思うと、胸が痛い。 上手に甘えさせてやれてなかったのだと後悔と反省が起こる。 速水はもう前の綾人には戻らないと言っていたが、本当にそうなのだろうか? どのような人格になろうとも気持ちが変わる気はないが、あわよくばと頭の隅を過るものに門倉は重い溜息を漏らした。 小さく首を左右へと振り、門倉は持ち帰ったA4判サイズの茶封筒に入った資料を広げた。 綾人のストーカーで、今回この事故を引き起こした人物のものだ。 事故を起こした男と門倉は直接会えなかった。 父の幸雄がかなり激怒していたにも関わらず、示談を申し込んできて、渋々手を打つ事から、かなりの権力の持ち主なのが伺えた。 加賀美 司(かがみ つかさ)。 代議士の息子だ。 加賀美代議士のことは門倉も知っていた。 二人の兄妹がいたと認識していたが、その中にこの男がいた記憶はない。 調べた資料を捲って確認していくと、やはり昔にストーカー行為の末に2人殺害した記録が書かれていて、これがキッカケで次男であった司は加賀美家から隔離されてるようだ。 今は親が与えたインテリアショップの経営を妹と営んでいるようで、売上はかなり上々らしい。 このストーカー事件で一度警察の世話になっていたが、精神病党へ直ぐに移され最近出てきたようだった。 加賀美の中で未だ綾人は変らぬ天使なのだろう。 求めるように近付いたらしいのだが、その隣に門倉がいて逆上したようだ。 少し、痛む頭の傷を押さえた門倉はこの男をどうしたものかと思案した。

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