224 / 309

第224話

side 綾人 くっそ! 日記なんて読むんじゃなかった! シャワーを頭から浴び、綾人は苦虫を潰したかのように顔を顰めた。 綾人が書き記していった日記は最初こそ、門倉に対して辛く憎しみが綴られているものの、確実に自分を守って慈しみ愛情を注いでくれていると思える言動に心が惹かれると残されていた。 『好きになってしまった。』 『2年間の恋人を悔いなく過ごしたい』 『僕の初恋の本気を捧げて、永遠の思い出にしたい』 実らぬ時間制限の恋に辛さを感じてはいたようだが、幸せも感じていたようだった。 あの腐った親戚連中からも救ってくれたと、日記には感謝の気持ちも綴られている。 門倉がただの木偶の坊ではないのは分かった。 だからと言って、門倉に恋愛の気持ちを持ったわけでもない。ないが・・・。 以前の自分のハマりように少なからず胸が痛むのは感じた。 せめて、門倉が卒業するまでの間は消えたくなかったであろう そう思うと居た堪れなかった。 何故自分がまた引き戻されたのか分からない。 どんなショックな事が起こって、前の自分は消えたのだろう。 それを知りたくて、クラスメイトやざくろに色々聞き周った。手帳の日記も何度も読み返したのだが、それらしき項目がなくて綾人は日々、頭を悩ませていた。 順風満帆とまでは言わなくても、そこそこ幸せを感じていたはずだ。 あの門倉が最初は裏切ったのかとも思えたが、それならば主治医の速水が自分を近付けるわけがない。 「意味わかんね〜」 体を洗い終えた綾人は大きな溜息を吐き出した。 出来ることなら詳しく日記に書き残していたい。 今度の人格が決まった自分が少しでも困らないように。 気分屋に遊び呆けている綾人ではあったが、日記を書くことだけは決して怠けることはしなかった。 次の自分へバトンを繋ぐため どんな自分に変わっても、幸せへなってほしい。 幸せになりたいから・・・ 自分であって自分ではない誰かの為に白木 綾人はこうして記憶を残していくのだ side 綾人 終わり

ともだちにシェアしよう!