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第226話
自分好みのSF映画がタイミング良く公開されていて、綾人はチケットとジュースにポップコーンも買って、いそいそと指定席へと向かった。
楽しみだとニコニコしながらポップコーン片手に映画が始まるのを待っていた。
数分後、ブザーが鳴って照明が落とされる。
宣伝が始まって面白そうな内容の数々に目を見張った。
本編が始まる時間が迫るに連れて、出入口が客で騒がしくなる。
カップルや友達と滑り込んできては慌ただしく皆、着席していた。
「失礼・・・」
空いていた自分の右隣にも若い男が一人ジュース片手に座ってきたが、綾人は大画面を見るだけで気にも止めなかった。
宣伝を終え、本編が流れ始めてまだ騒ついていた客達も口を閉じて映画に集中する。
綾人も非現実的な世界観を繰り広げるスクリーンに呑み込まれ、飲む事も食べることも忘れて映画へと没頭した。
話も終盤に差し掛かり、主人公達の涙を誘うシーンに一人ポロポロ涙が流れ、焦ってハンカチを探すものの、辺りが暗いことからなかなか見つけられずにいた。
その時・・・。
「良ければ、どうぞ」
右隣にいた男が自分へハンカチを差し出してきたのだ。
親切な人だなと顔を向けた瞬間、綾人の心臓がドクンッと大きく揺れて呼吸が止まった。
「か、加賀美っ!!」
声を上げ、席を立って自然と体が後退した時、加賀美はニタリと笑って綾人の細い手首を掴んだ。
「俺の天使・・・。やっと捕まえた」
その一言を呟くと、加賀美は綾人の顔面へシュッと霧状の甘い香りのスプレーを振りかけた。
その甘い香りを嗅いだ途端、視界が急遽歪んで意識が朦朧とし始める。
ぐるぐる回る景色と強烈な眠気に誘われて綾人の瞼が閉じ、逃げようとしていた体は崩れ落ちる。地面へ突っ伏す直前、加賀美はその体を引っ張り寄せて抱きしめた。
「穢れを全て落とし、罰を受けようね・・・。そして、俺だけの天使になるんだよ」
完全に意識を飛ばした綾人の耳元へ念じるように囁くと、加賀美は愛おしいと蜂蜜色の髪へ歓喜に震えながら唇を寄せた。
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