230 / 309

第230話

「起きた?少し体は重いかもしれないけど、気分は悪く無いだろ?」 横たわるベッドのシーツと体を覆う衣服を綺麗にされた綾人は再び鳥籠の中で目を覚めした。 先ほどと違うのは、この部屋に焚き込められた甘いお菓子の様なお香の匂いが綾人の意識をクラクラさせた。そして何より、縛られているわけでもないのに体が重くて身動きが取れないことだった。 指を一本動かすだけでかなりの集中力と労力を要する。 「少し、水分を摂ろうね」 柔らかな声で加賀美はそう言うと、鳥籠の中へグラスに入った水を持って入ってきた。 身動き出来ない体が再びカタカタ震えだす。 「怖がらないで。大丈夫・・・。もう直ぐ、俺だけの天使にしてあげるから。罰を受けて、身も心も綺麗に清めたら許してあげるよ」 体を抱き起こされ、人形のように綾人を扱いながら加賀美はグラスの水を口に含むと綾人の唇を塞いで水を飲ませた。 涙だけが自由に溢れて流れ落ちる。 こんな奴とキスなんてしたくない・・・ 怖い・・・ 怖い・・・ 怖い・・・ 再び、ピシピシと何かが砕ける音が耳の奥で聞こえた。 壊れる・・・・ いや、壊される・・・・ そう感じた綾人は瞳を閉じて、両親のことを思い出した。 自分を最後まで守り抜いて亡くなった父と母を思うと加賀美が憎くて体が震えた。 そして、次に何故かあの門倉の顔が過った。 優しいような厳しいような不思議な男は、いつも飄々としては掴み所のない変わった人間だった。 ただ、分かることはとてつもない自信と強さを兼ね揃えていたこと。 『必ず守るよ・・・。それが俺の愛し方だから』 門倉が自分へ告げた愛の言葉が耳と脳にふと、蘇り、綾人は崩れる心の均衡を保つことが出来た。 俺を愛してるなら早く助けにきてよ 必ず守るなら、今だ・・・。 助け出して! 綾人は門倉が発したあの言葉に縋る想いを馳せて、加賀美の唇が離れるや囁いてしまった。 「・・・優一」

ともだちにシェアしよう!