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第231話
「やっ!やめっ!!やめてっ!!っゲホ・・・ぷはぁっ、はぁ・・・」
綾人の囁きにより、加賀美は優しい紳士の言動が引き剥がされた。
「優一」と綾人の口から発せられた直後、鬼の形相になり、綾人の首根っこを掴んでバスルームまで引き摺った。
そこへ冷水を張ると綾人を中へぶち込み、更には後頭部を掴んで水の中へ顔を付けさせた。
どれだけ暴れても力の差は歴然で抗うことは不可能な綾人は必死に酸素を求めて許しを乞いた。
「この穢れた堕天使がっ!他所の男の名前なんて口にして!!清めろ!あの純真無垢で俺だけに懐いてたお前に戻れっ!!」
激昂しながら加賀美は何度も何度も綾人を罵倒しながら冷水へ顔を沈めさせる。
「ご・・・、ごめんなさっ・・・、はっぷぅ・・、ゆ、ゆるひてっ・・くるしっ・・」
寒いのと怖いのと苦しいので、頭の中はパニックになった。
加賀美は綾人からの謝罪を聞くと、まだ怒りに震えながらも綾人の顔を沈める行為を止めた。
「いいか?俺がいいと言うまで上がってくるな!ここでその汚い体と心を清めてろ!!」
前髪を掴まれ、怒声と共に命令されて綾人は怯える瞳をキツく閉ざして頷く。
従順な態度を見せる綾人に加賀美は舌打ちすると、脱衣所へと消えた。
残された綾人は冷え切った体を自分で抱き締めながらガタガタ震えて冷水に浸かり、加賀美の許しが出るまでジッと待っていた。
数十分ほど経ったのか、まだ少し不機嫌な顔をした加賀美が濡れた服を着替えて大きなバスタオルを手に戻ってきた。
「・・・反省したかい?」
キツイ口調で問われ、綾人は寒さと恐怖に体を震わせながら壊れた人形のように何度も首を縦に振る。
そして、うわ言のように何度も謝罪を繰り返した。
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
寒過ぎて唇は紫色へと変色し、白い肌は青白くなっていた。
着せられていたワンピースが水を含んで体にまとわりつき、気持ち悪い上に更には体力も体温を奪っていく。
加賀美は明らかに体調を崩しそうな綾人に溜息を漏らして、そっと綾人を浴槽の中から引き上げてやった。
そして、ワンピースを脱がせて柔らかな白い大きなバスタオルで体を拭き、また新しいくるぶしまである白のワンピースを着させた。
ガチガチと寒さから歯を鳴らして震える綾人の肩を抱いて加賀美は部屋へと戻った。
綾人から離れると、温かい何かを求めるように自分から鳥籠の中のベッドへと入って布団に包まる。
その行動に加賀美は満足したように微笑むとカシャンと音を鳴らして鍵をかけた。
「いい子だね。自分のお家がどこか分かってきたんだね。少し休憩してて。ご飯を持ってきてあげるから」
そう言うと、加賀美は上機嫌に部屋から出て行った。
その後ろ姿と共に閉ざされる扉に綾人の心は安堵の吐息を漏らして、ゆっくり瞳を閉じた。
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