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第234話

次に目を覚ますと、綾人は鳥籠の中のベッドの上で横たわっていた。 部屋にはまたあの甘い香りが満たされている。 体が重いのと全身が暴力にて殴られたことにより痛みで動けなかった。 瞼だけを開けると、にこやかで優しい顔の加賀美が隣に立っている。 「僕の天使。罰をちゃんと受けて賢かったね。その痛みが僕からの許しを与える愛だと分かっておくれ」 愛おしいと綾人の額へキスをすると、加賀美は小さな白い錠剤を口の中へ水と一緒に含み、そのまま綾人へ口付けしてそれらを流し込んで来た。 されるがまま、コクリっと薬と水を飲むと加賀美はよしよしと頭を撫でてくる。 「痛み止めだからね。ちゃんとお薬飲めて偉いね」 小さな子供に接するような優しさを見せる加賀美に綾人は心なし安心感を得ていた。 今の彼からは怒りは感じられない。 暴力は振るわれないと思って胸を撫で下ろした。 「・・・・さてと」 スッと綾人から手を引くと加賀美の瞳が妖しく微笑む。 「そろそろ俺だけの天使になろうか?」 ふわりと幸せそうに笑うと、綾人は何一つ抵抗できないまま瞳を閉じた。 意識が混濁する・・・ この香りのせいだと思えた 良いことも悪いことも思い出させるこの香りに綾人の心は崩れ落ちそうだ。 幼い頃の自分 父と母に慈しまれた。 多大なる愛情に包まれて育ち、幸せだった。 虐めに遭って悲しかった。 加賀美と出逢って全てが終わって、地獄の幕開けだった。 親戚には人以下の扱いを受けていたし、体が成長するば沢山の辱めも受けてきた。 ガラガラと音を立てて綾人のアイデンティティーが崩れていく。 壊れる ある意味、「死」を意識した途端あの男が頭に蘇った 門倉 優一 始めて恋に落ちた人 自分の全てを奪って、自分の全てを捧げた男だ 怖かった・・・ 自分を追いかけてくる門倉から綾人は必死に逃げていたことも思い出す。 捕まればきっと、自分の中の均衡が崩れる気がしたから。 案の定、男に心を囚われて要らぬ恋心を抱いた。 門倉・・・先輩・・ 門倉の顔が思い出せない。 今までの自分が壊れていく感覚が分かる・・・ 始まりは全てを壊し、壊れた瞬間、全てが構築されて始まりを生む・・・ 始まりたいのになかなか進めなくて苦しい 自分が何なのか分からなくなる 新たに生まれる人格が出来たら俺はどうなる? 加賀美の人形?奴隷? 今まで思いもしなかったことを考え始めてしまって不安が湧き上がった。 綾人は考えがまとまらず、混乱していった。 ただ、唯一分かるのは・・・・ 門倉に会いたかった 守ってなんていらない 捨てられても構わない 加賀美に鞭でまた打たれてもいいから・・・ 好きって言いたかった 自分の始めて自覚した感情だったから 伝えたかった。 ただ、それだけ・・・・ 瞼が重く、意識が落ちそうだ 次に目覚めた時、全てを失い全てを加賀美へ与えられるのだと思うと涙が流れた。 不の覚悟を決めた瞬間、自分の名を呼ぶ声が遠くで聞こえた。 「綾!」 必死に自分を呼ぶ声が重い瞼を開かせる。 「綾人!!」 怒鳴ってるのか叫んでるのか分からない声が耳ではなくて心に響いて苦しい 先輩・・・・

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