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第235話
「ぐっ、あぁ!!」
部屋へ警察の部隊と乗り込んだ門倉は傷だらけの綾人が鳥籠へと囚われた姿を確認するや、目の前を真っ赤に染めて加賀美の胸倉を掴み、急所を何発も拳で入れては殴り続けた。
一方、加賀美はいきなりの事で受け身も取れず、反抗も出来なくて門倉へひたすら殴られ続ける。
己の体力がこと切れるまで門倉は加賀美を殴り続けそうで周りはゾッと背筋を凍らせた時、門倉が小さな声で呟いた。
「お前は外部へ攻撃してもダメだな・・・」
門倉は今までとは違う構えを取り、足に力を込めて目に見えぬほどの瞬発力で一歩を踏み出し、加賀美の胸中へ掌打を放った。
「ガハッ!」
見事に決まったそれは、見た目には大したことがなさそうなのに、血を吐き出すほどの威力を見せつけ、その場にいた全員が驚きに目を見開いた。
膝をついて苦しそうに胸を抑える加賀美を修羅と化した門倉が見下ろす。
「お前の心臓、止めてやる」
クッと、口元のみ笑みにして再び構える門倉に綾人がまずいと重く痛む体を起こしたとき、けたたましい足音と叫び声が聞こえた。
「かどくらぁぁぁあ!!!!」
壊された扉を開き、リビングへ土足で走り込んできたのは門倉の親友であり幼馴染みの九流で、全身汗だくで息を切らせていた。
その隣には同じく汗だくで苦しそうに息を切らせたざくろが立っていた。
「か、門倉先輩・・・、殺してませんよね?」
息を切らせ、整わない心臓を服の上から押さえつけ、ざくろが死人がいないことを確認して安堵した。
「何しに来た?今からヤるからお前ら帰れ。ついでに綾人も連れてけ」
九流へ冷ややかな視線を向けて命令する門倉にざくろが口を開く。
「門倉先輩、正気になってください!こんな助けられ方しても綾にトラウマが残るだけです!!」
「トラウマがどうした。そんなの残ればいい。そしたら綾は俺から離れられない」
「そんな曲がった愛情必要ありません!」
「こいつが離れていかない可能性を得られるなら俺はする!」
「そんなの、加賀美と一緒じゃないかっ!」
ビリっと空気が震えるほどの威圧感にざくろは悲痛の叫びを唱えた。
そんなざくろを九流は背に庇い、門倉の前に立つ。
「偽善ぶんなよ。お前だって俺と同じ立場ならこんなゴミ、ヤるだろ?」
皮肉をぶつけるように見下した笑みで聞いてくる門倉に、九流は真面目に答えた。
「お前が俺と同じ立場ならこうして必ず止めるよな?」
その言葉に門倉の表情が固まる。
「門倉・・・。白木の前でこいつをヤるのは許さない。お前が後悔するからだ・・・」
加賀美でも綾人でもない、門倉は自分を思いやる九流の言葉に時が止まる感覚に陥った。
綾人を思って一人で考え、一人で突っ走り、一人で乗り越えようとしていたが、門倉は今ここで一人ではない現実を突きつけられた。
予想外のアクシデントに柄にもなく頭の中を真っ白にさせた。
「・・・先輩」
黙り込む門倉に鳥籠の中からカシャンと檻へ手を掛けてか細い声の綾人が門倉を呼んだ。
不安そうに瞳を揺らし、小刻みに体を震わせている。
守りたかった自分のものの成れの果てに胸になんとも言えない後悔の念が込み上がる。
ざくろが言った「加賀美と同じ」と言う言葉が頭の中をクリアにしていった。
自分を見つめる綾人は今にも崩れ落ちそうだ。
今、自分がすることは加賀美を殴ることではない。
この傷付いた綾人を癒して覚醒させることだと門倉は鍵の掛けられた鉄格子の隙間へ腕を差し入れ、綾人の体を抱きしめた。
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