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第236話

「綾・・・」 震える声で綾人を呼ぶと、腕の中で啜り泣く声が聞こえた。 「俺のこと好き・・・?」 ずっと聞きたかった答えを強請るように門倉は声を震わせて聞いた。 その問いに綾人は小さく頷く。 「好き・・・っ・・」 門倉と同じように震えた声は聞こえるか聞こえないかの小さなものだった。 ずっと言いたかった言葉は実際口に出すのが躊躇われた。 愛しい気持ちが大きければ大きいほど、拒絶された時が恐ろしい。 綾人はキツく目を瞑ってぼろぼろの体で門倉にしがみついた。 鉄格子が骨に当たって痛い。 少しの障害も今は邪魔に感じて門倉と綾人は気が狂ったように力を込めて抱きしめ合った。 「綾・・・、好きだ。守れなくてごめん・・・っ・・」 苦しそうに謝罪してくるその声は涙声で、自分の肩が濡れている事に綾人は気が付く。 どうやら、門倉が泣いてようだった。 「・・・先輩が、門倉先輩が好きです。離れたくないっ・・」 ほんの少し体を離し、綾人は門倉の両頬を両手で包んだ。 目と目を合わせ、額と額を合わせて嬉しそうに微笑む。 「綾・・・、人格が・・記憶が戻ったのか!?」 自分のことを「優一」ではなく、「門倉先輩」という綾人に目を見開くと、綾人は儚く微笑んだ。 「ごめんね・・・。きっと、僕はこのまま消えます。分かるんだ。自分の中の信号が点滅してるの・・・。だから、聞いて?」 消える前にちゃんと伝えたいと、綾人は紅茶色の瞳を見つめた。 「先輩のこと好きになってごめんなさい・・・。二年なんて短過ぎて僕には辛かった・・・。好きって言ってくれて嬉しかったよ」 ふふっと笑う綾人はまるで遺言のように今迄の想いを吐露していった。 「我儘いっぱい聞いてくれてありがとう。雷の夜は一緒にいてくれてありがとう。怖い気けど、宿題見てくれたのも嬉しかった・・・。どれだけケンカしてもちゃんと守ってくれて・・・、こうして助けに来てくれて僕、嬉しいよ・・・。先輩のこと、好きになって良かったです・・・」 息が苦しそうに吐息を乱して綾人は涙を流しながらも、懸命に門倉へ感謝の言葉を連ねた。 「綾らしくない・・・。なんか、最後みたいだ・・・、そんな言い方やめろ・・」 綾人の顔を両手で鷲掴み、門倉が泣きながら懇願した。 悲しくて嗚咽で呼吸が乱れる。 子供の時以来、こんなに泣いた事がなくて自分でも制御できなかった。 このまま綾人を失ったらどうなるのだろう・・・ そんなこと考えたくなくて、門倉は叫んだ。 「消えないで・・・、消えないでくれっ!頼むから・・・好きなんだ。綾が好き・・・。何でもするから、お前が笑えるように頑張るから戻ってきてくれ・・・」 カタカタ震える体が痛々しくて、今にも意識を飛ばしそうな綾人をキツく抱き締めた。 「泣かないで・・・、そんな顔しないで・・・・先輩っ・・・」 門倉の背へ腕を回してしがみ付くように抱き着くと、綾人はそのまま意識を失った。

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