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第239話
「・・・んっ、あや?」
ふと、目が覚めて門倉はゆっくり頭を上げると青い顔で必死に何かを書く綾人に目を見張った。
「あ、綾!起きて大丈夫なのか!?」
興奮から声を荒げて聞くと、びくんっと、体を竦ませた綾人が門倉を見る。
「・・・門倉せんぱ・・・・」
顔面蒼白の綾人は力無く微笑むと、その体は小刻みにカタカタ震えている。
「・・・待って、医者を呼ぶから」
ナースコールを急いで押し、部屋へ来るよう伝えると綾人の手の中のメモを見た。
「何、書いてるの?」
「・・・日記。いつ消えても良いように覚えてること書かなきゃ」
無理に笑顔を作くる綾人に門倉が優しく震える小さな体を抱きしめた。
「消えないでくれないか・・・。辛くて苦しいこといっぱいあって、いっぱい思い出して消えそうなぐらい心が壊れかけてるのは分かってる・・・。だけど・・・・」
門倉はそっと体を離して綾人の蜂蜜色の瞳へ自分を映し、切に願った。
「俺の為に頑張って欲しい・・・」
共に乗り越えようと、握り締められた手が痛かったが、その痛みが嬉しくて綾人はくしゃりと顔を顰めた。
直ぐに医者と看護婦、そして病院で宿泊していたらしい速水が病室へと駆け付けた。
怪我の具合を確認され、痛いと訴える綾人へ強めの痛み止めの点滴と飲み薬が処方された。
即効性が高いのか、痛みに脂汗を滲ませていた綾人はかなり楽そうに顔色を良くさせていく。
外科と内科の医師が部屋から出て行くと、速水が今度は綾人の診察を行なった。
掌に何枚も落ちるメモ用紙に目を向けて内容を確認すると、それらはここ数日の監禁生活のことが書かれていた。
「綾人君、強くなったね・・・」
顔を上げて速水は綾人の頭を優しく撫でた。
普通であれば、心の病がなくともこんなことを書ける人間はいない。
多大なる大きなショックを持っているはずなのにそれをも糧にして次へのバトンを送り出そうと健気に頑張る綾人を速水は尊敬した。
「もう無理をしては駄目だよ。消えたくないでしょう?」
優しく穏やかな声で聞いてくる速水に、綾人は小さく頷いた。
「こうして一夜を明かしても君の人格が残ってるんだ。今はまだ不安定かもしれないけど、心の傷をゆっくり癒していけばまた定着できると思う。頑張ってみない?」
君なら出来るよと、力強く励ます速水に綾人は嬉しそうに大きく頷いた。
「僕ね・・・、あと1年半は消えたくない・・」
ポツリと自分の望みを口にした綾人に速水が優しく微笑む。
「1年半だなんて短いな!2年でも3年でも今の君のまま成長していけばいいんだよ!」
力強く、優しい速水の言葉に綾人は笑顔を作って頷いた。
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