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第243話

あれから一ヶ月。 傷口も完治し、最新医療の技術によって綾人の体の傷は一つ残らず消された。 傷が残ると、心の傷も引き摺る可能性が高いことから門倉と速水は安堵する。 今日は土曜日で、午後から二人は速水の診療所へやってきているのだが、段々と調子を戻しつつある綾人はいつものように笑顔で出されたカルピスといちご味のお菓子を頬張っていた。 「美味し〜。これ、新作で食べたかったんだ!」 椅子に腰掛け、足をブラブラさせながらわーいと喜ぶ綾人に速水がこれならと、診察を行なった。 「月曜日から学校始まるようだけど、大丈夫?不安なことはない?」 「うん!大丈夫!ざくろもいるし、昼間は退屈だから早く行きたいぐらい」 にぱっと、笑ってお菓子をまた一口頬張る綾人に速水は笑顔で問診を続けた。 「処方した薬が4回使われてるけど、何かあったの?」 精神安定剤を一ヶ月分、処方されていたのだが何事もなければ飲む事を禁じられていた。 それが4粒なくなっていて、速水が聞く。 綾人はその質問にびくんっと体を跳ねさせると、一気に表情を曇らせた。 「え・・・っと・・」 口籠る綾人に変わって、それについては横にいた門倉が答えた。 「一回は夜中にうなされて過呼吸に陥った。怪我も治ってないし辛そうだから俺が飲ませました。残り三回は・・・」 ちらりと綾人を見ると顔を赤くして身を縮こませる綾人の頭を撫で、隣の待合室へと移動させた。 速水は込み入った話かと黙ってその行動を許可する。 室内に門倉は速水と二人になると、椅子に座って最近連続で続く悩みを告げた。 「残り3つの薬は綾を抱こうとしたらパニックになるんだ・・・。加賀美が呪いの言葉を吐き続けて鞭を打ったのが原因らしくて体が拒否反応を出す」 包み隠さず門倉が言うと、速水は黙々とその事実をカルテに書き記していった。 「拒否反応って例えば?」 「怯えて監禁時の記憶へトリップしている。あと、二回嘔吐した時もあるし、何より体が全く反応しない・・・。快楽を感じること、俺に抱かれることをどうやら強く禁じられたようなんだ」 参ったと、額を押さえて呟く門倉の証言を速水はなるほどと再びカルテへ記載した。 「っで?結局最後まではするの?」 「いや、途中で止めて薬を飲ませて眠らせるだけ」 「綾人君はそのこと・・・」 「俺へ罪悪感を持ち始めてる。まぁ・・・、おれも正直辛いしね」 「・・・・・そうだろうねぇ〜」 カルテから顔を上げずに気の無い返事を返してくる速水はふむっと、首を捻った。 「こればっかりは時間の問題かな」 今のところ、打つ手はないと視線を上げて告げてくる速水に門倉はやっぱりなと息を吐いた。 今は無理強いすることはタブーだし、心のケアを優先し、トラウマを少しでも減少させるのが得策だ。 仕方ないと、門倉は頷くと隣の待合室へと綾人を呼びに行った。

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