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第247話

「あれ?閉まってる・・・」 昼休み、一緒に食べようと約束した生徒会室の扉が閉ざされていて、綾人は首を傾げた。 クラスメイト達を追い払うのに夢中で10分ほど遅刻したにも関わらず、門倉も遅刻のようだ。 「まだ、教室なのかな?飲み物買うがてら誘いに行こうかな・・・」 その場で更に5分ほど待った綾人は痺れを切らせて、エレベーターへと乗り込んだ。 門倉の教室を目指す前に食堂近くにある自販機で自分の飲むカルピスと門倉の飲むブラックコーヒーを買う。 早足で二年の教室を目指しているとき、一人の生徒の声が耳に聞こえた。 「門倉先輩、また告られてるよ!」 その声にぴたりと、足を止めて目を向けると三人で固まっていた男子生徒達が綾人の存在に気が付いてびくりと体を固まらせた。 門倉の恋人である天使を前に怖気付く。 三人が見ていたであろう視線の先を見ると、中庭の木々が連なる目立たない場所で門倉が一人の生徒と話し込んでいた。 「・・・よく、告白されてるの?」 ポツリと聞くと、それに対して三人は戸惑いながらも口々に情報を綾人へ与えてくれた。 「断ってはいるみたいだけど、最近はかなり多いよ」 「前までのようにザックリ切るんじゃなくて、一人一人、丁寧に断ってるからまた人気がでるんだよね」 「俺も実は先週振られたけど、本当に優しかったし」 あははと笑う三人に綾人はしゅんっと頭を下げて落ち込む様子を見せた。 そのまま、駄目とは知りつつもいてもたってもいられず、中庭へと入っていく。 門倉と相手の子の話し声がギリギリ聞こえる場所まで近付くと、立ち聞きなんて良くないと知りながら耳を澄ませた。 「会長・・・、遊びでもいいんです!俺のこと捌け口にして」 身を寄せて懇願する男子生徒に門倉は戸惑いながらも、笑顔でごめんねと謝って身を離させた。 それでも尚、好きだの、抱いてだのと必死に擦り寄る男子生徒に綾人は青ざめていく。 「噂じゃ、白木君としてないんでしょう?最近の会長、凄い色気だもん。本当、ただのオモチャって思ってくれていいですから!本命が白木君っていうことは分かってます。だから・・・」 「あ〜・・・。うん。ごめんね。ほんと、溜まってるから有難い申し出なんだけど、ちょっとその気になれないし、止めとくわ!本当、ごめん。気持ちだけ受け取る」 あははと笑って、田中の頭をポンポンっと叩く門倉に落ち込む様子を見せる同級生をよしよしと頭を撫でて慰めた。 「・・・じゃあ、こんな俺がいるってことだけでも覚えておいてください」 「ああ。分かったよ。ありがとう」 グスッと涙を拭いて最後まで自分を売り込む男に綾人は底知れぬ焦りを感じた。 その場をバレないように離れ、一目散に寮の部屋へと戻り、机の棚の中から速水に貰った精神安定剤を飲む。 走ったせいか、あのインパクトのある告白のせいなのか、早鐘のように鳴る心臓が痛くて困惑する頭を抱えた。 やだ・・・ このままじゃ、先輩を取られちゃう・・・ はやく・・・、はやく、エッチ出来るようにならなくちゃ・・・ 恋人ではなく、セフレでもいいという人間は門倉相手ならば星の数ほどいるであろう その事実を目の当たりにした綾人は自分の甘えの不甲斐なさと、門倉を誰かに奪われるのではないかという不安に押し潰されそうになった。

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