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第250話
「綾ちゃん、速水に本当は何て言われたの?」
綾人をソファへ座らせて、カルピスをコップに注ぎ目の前へ置いてやる。
怒るのではなく聞きだすように優しくもう一度質問すると、綾人は先程と同じことを告げてきた。
「・・・・エッチしていいって」
「綾ちゃんが吐いたり泣いたりしても?」
本当に?と顔を覗いて聞かれ、体が強張った。が、綾人はコクンっと頷いた。
それ以上、話す気がなさそうな綾人に門倉はこれでは駄目だと席を立ち上がる。
「綾、あんまり嘘つくと俺も怒るから・・・。こっちだって欲望抑えんのに必死って分かれよ」
少しキツい口調で嗜めると門倉は泣き出しそうな綾人へ5分外に出ると告げ、部屋を出て行った。
部屋の扉が閉まるのを聞いて、綾人の瞳からボロボロと涙が流れた。
「大丈夫だもんっ・・・、怖くないもん・・っ・・」
ひっくひっくと、しゃっくり上げながら手の甲で涙を拭い、綾人は鞄を引き寄せた。
そして、中から今日速水から処方された安定剤の薬が入った袋を取り出した。
小さな錠剤の薬を5粒取り出すと、目の前のカルピスでそれを一気に飲んだ。
一粒飲めば十分な効力を発揮する薬だが、綾人はもっと飲むべきかと悩んで薬を握り締める。
そのとき、ガチャと扉が開いて体を跳ねた。
「綾ちゃん、お菓子買ってきたよ〜・・・って、綾?」
キツイことを言って綾人を責める態度を反省した門倉は機嫌を取ろうと、イチゴ味のお菓子を買いに行っていた。だが、どことなく怯えた様子の綾人の手の中の薬を見て、目を見張った。
直ぐさま綾人へ駆け寄り、薬の内容を確認する。一回一錠と書き記された紙を見て、5錠は飲んだ形跡を残すゴミに門倉は怒鳴り声を上げた。
「綾人!!」
大きな声にビクッと体を竦める綾人の口を大きく開かせると口の中へ指を二本入れた。
「薬、5錠も飲んだのか!?この、馬鹿っ!吐け!出すんだ!!」
喉の奥を突かれ、吐き気が伴い綾人はオエッとえづいたが、嫌だと門倉の手を振り払った。
「大丈夫!!絶対大丈夫だからエッチしよっ!?僕を信じて!!」
涙目で自分を睨み付けてくる綾人に門倉は眉間に皺を寄せて吐き捨てるように答えた。
「薬を飲む奴の何を信じればいいのか分かんねーよ。いい加減にしろ!エッチ、エッチってそんなに溜まってんの?」
最後は馬鹿にするように言われ、綾人は傷付いた顔で門倉を見た後、涙を拭ってソファから立ち上がった。
「もういい・・・。門倉先輩には頼まない・・・」
拭いても拭いても流れる涙に綾人は鬱陶しいと、無視して部屋を出て行こうとした。
「綾!どこへ・・・」
「放っといて!別の人にしてもらう!!一回したら絶対大丈夫だもん!!絶対普通に戻るもん!!」
門倉の声を遮るように怒鳴ると、綾人は地面を蹴って部屋を飛び出した。が、そんなことを門倉が許すわけもなく、首根っこを掴まれ部屋の中へと投げつけるように戻された。
「っ!」
地面へ叩きつけられ、痛みに顔を歪ませ門倉を睨みつけたが、門倉の怒りも頂点に達したのか綾人を見下ろす表情は怒りに顔を歪められていた。
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