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第258話

「綾〜?」 門倉は九流とざくろを連れて部屋へと戻ると、綾人はベッドの上で眠っていた。 九流は乱れるベッドを一瞥し、ソファへと腰掛けたのだが、ざくろは生々しい情事の形跡に顔を赤く染めた。 キングサイズのベッドの所々に卑猥なおもちゃが転がっていて、目に触れぬよう瞳を反らせる。 「綾ちゃん?起きて〜」 タオルケットに包まって眠る綾人の頬を包み、キスを何度もしながら甘い声で門倉は起こし続けた。 「っ・・、やだ!眠いっ・・・、起こさないで・・」 目を瞑ったまま門倉の手を払い、寝返りをうつ綾人を抱き締めて戯れるように顔中へとキスを降らせると、怒った声が飛んでくる。 「もう、エッチはやだぁ!寝るのっ!!」 起きるとそのままやらしいことに持ち込まれる綾人は目覚めるのが怖い。 お腹が空こうが喉が渇こうがこのまま眠っていたかった。 「綾ちゃん。西條が来てるよ?」 頭まで布団を被ってしまった綾人に門倉が教えてやると、少し間が空いた後、ガバッと綾人は飛び起きた。 「ざくろ!!?」 少し離れたソファで赤い顔でヒラヒラ手を振る友人に綾人は笑顔になるものの、次に自身の体へ視線を落とし乱れた格好に赤面した。 「ふ、服!!ゆーいち、服貸して!!!」 「はいはい」 クスクス笑って門倉は綾人へ自分のトレーナーを差し出した。 自分が着ると丁度だが、綾人が着ると身長差と体格差があって少し短いワンピースのようになる。 足元が少し心許ないといつも言っていたが、段々と慣れてきたのか、いそいそと手渡されたトレーナーに袖を通すとベッドの上から這い出た。 「おいで、綾ちゃん」 腰が立たず、落ちて転ぶことこそなかったが、辛そうな様子に門倉が綾人の体をふわりと抱き上げ、九流とざくろのいる元まで運んであげた。 「ざくろが来てくれて嬉しい〜!わぁ〜!会いたかったよ〜!!」 腕をぶんぶん振って喜びを全身で表現する綾人にざくろが手土産のお菓子やらジュースを差し出した。 「俺も綾に会いたかったよ。明日は学校行ける?」 袋を受け取ると中からカルピスを取り出し、その他は皆んなへ回した。 各々、ざくろが買ってきた飲み物を取り出すと封を開けて口にする。 「・・・うん。僕は行きたい」 少し口籠る綾人の回答に九流が門倉へ口添えする。 「門倉、ちゃんと授業は出させてやれ」 「・・・・分かってる」 溜息交じりに頷くと、綾人の顔が笑顔になった。 「僕、部屋に帰ってもいいの!?」 なんだか、監禁でもされているような台詞にざくろが心配そうな顔をした。 「・・・どうして綾ちゃんはそんなに帰りたがるわけ?ここで生活すれば良くない?」 案の定、綾人の言葉に不服を申し立てる門倉は嫌そうな顔で文句を言った。 それに対し、カルピスを飲みながら眉を垂らして黙り込む綾人に九流が優しく聞く。 「こいつと一緒に生活ってしんどいんだろ?変なこだわりはあるし、行動範囲とかも押し付けてくるからな」 門倉の性格を熟知している九流が助け船を出し、綾人はそれもあると小さく頷く。 「・・・あと、一人の時間が欲しいんです」 綾人の精神はとてもアンバランスだ。 嫌な事やショックな事があると、誰かに話したりするような簡単な発散方法では済まない。 ゆっくり一人の時間を過ごして、心と身体を整え、メンテナンスを行わなければ直ぐにキャパオーバーになってしまうのだ。 それを怠ると自分が消えていく恐れがあることから怖いと門倉へ告げた。 「・・・・・分かった。だけど、週末は前みたいに泊まりに来て」 ハッキリとした理由からそれなら仕方ないと了承する門倉に綾人はホッと胸を撫で下ろして、ありがとうと笑顔を見せた。

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